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春日編

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***


 春日さんが倒れて数日入院していた間、何故か私が春日さんのお世話をする事になった。そのおかげか大手の取引を春日さん抜きで成功させたかは分からないけど、前より冷たく当たられなくなった……ような気がする。
 秀麗の化粧品専門店へ向かって、今私の目の前を歩いている春日さんの後ろ姿に妙にドキドキしたり。
 線が細くて我侭というか、ワンマンで俺様だけど、やっぱり男の人なんだな〜。倒れた時は本当にびっくりしたけど、それだけ仕事に対して情熱を持っているって事だもんね。尊敬しちゃう。
 カレンが言ってたけど、春日さんは入社してすぐに大口の仕事を取って来て、美成堂始まって以来の期待株らしい。もちろん社長にも営業部の部長にも気に入られているし、他の会社のお偉いさんの娘さんとの結婚話しまでもう来てるとか。何だか住んでる世界が違いすぎるな。
 おかげで同じ営業部では結構やっかみを受けて、酷い事を言われたりされたりもしていたみたいだけど、文句を言わせないほど仕事が出来るものだから、今では誰も春日さんをいじめたりしていないらしいけど―――

「孤独じゃないのかな……」

 無意識に口をついてしまった言葉に、私ははっとした。
 私ったら、すっごい失礼! よく知りもしないで勝手に春日さんに孤独なんてイメージ作ってる!

「別に孤独じゃないけど」
「えっ?」
「あんた、今僕の事孤独って言ったでしょ?」
「―――き、聞こえてたんですか……?」
「まあね、自分の真後ろで呟かれたら嫌でも聞こえるし」
「す、すみません!!」

 あ〜〜! もうっ! 私のバカバカっ!!!
 人がいなかったら思いっきりビルの壁に頭をぶつけたい所だわ!
 ―――て、あれ? 今、孤独じゃないって言った?

「なに、その顔。僕が一人で仕事やって、猫被って周りの人に嫌われてるのに孤独じゃないなんておかしいって思ってんの?」

 この人心が読めるのかしら? やばい、いつもの顔に出てたパターン?

「いえ、そんなつもりじゃ……」
「別にいいけど、自分で性格がいいなんて思ってないし」

 自覚はあるんだ。

「僕はね、誰も信用してないの。人を信用して裏切られた時、辛いのは自分だから……だから、誰にも文句を言われない位の仕事をやって、社長に喜んでもらえればいいの」
「社長の事が好きなんですね」
「―――その言い方、気持ち悪いからやめてよね。でもまあ、あの人には恩があるから、会社と御影山社長の為に僕は頑張るって決めてる。だから、別に孤独だなんて思わない」

 それは自分でそう思い込んでいるだけで、孤独と一緒なんじゃないかしら? 春日さんって、実はすごく繊細な人なのかな?

「ほら、秀麗の店が見えて来たよ。カップル装ってしっかりリサーチするから、そのつもりで。ポカやったら社長に言って即、追い出すから」
「っ!? はひぃ」

 か、カップル装うですって!? 私と、春日さんが!? ちょっとそんなの無理! いや、嬉しいような気もするけど、なんか無理!!



作品名:春日編 作家名:有馬音文