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春日編

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 春日さんの体調もすっかり戻ったある日、社長からの緊急召集で私たちは再び会議室に集合していた。
 前回と同じような顔ぶれで開かれた会議だけど、今回は何故だか空気がとても重たい……。

「今日は、社長から大事なお話しがあります」

 司会役の男性社員の額には、あきらかに冷や汗と分かる汗。それをしきりに拭う動作に、私は背中に力が入った。
 大事なお話って、何だろう?

「皆、心して聞いてくれ。―――我が社が心血を注いで作り上げて来た今回の新作グロスだが、どうやら情報が秀麗にもれているらしい」
「ええっ!?」

 驚いたのはその場にいた全員。あっという間に動揺が部屋中に広がる。
 私はびっくりしすぎて一瞬息が止まっちゃった。慌てて隣りの春日さんを見る。
 春日さんも驚いているらしく、目を丸くさせてる。だけどこちらを向いた私を見てすぐに険しい表情に戻ると、小さく頷いた。落ち着けって事ね。
 ごくりと生唾を飲み込む。

「どこから情報が漏れたかは調査中だが、これでまた新製品の質をさらに高める必要が生じた。今よりも商品の値段を上げるわけにはいかないし、別の商品を作る時間もない。開発部にはもっと厳しい仕事をしてもらわなくてはいけないが、各部署で出来る限りのコスト削減を徹底して欲しい。お客のニーズに答えてこその美成堂だ。新作発表会には各化粧品会社が雁首揃えて出席する、その中で美成堂の商品が一番だと言わせる商品作りをしろ。あまり時間がない事を肝に銘じ、すぐに仕事に取りかかってくれ。以上だ」

 社長の声はいつにも増して厳しかった。全員が一斉に立ち上がり、小走りに会議室を出て行く人、数人で集まって早口で話し始める人、様々だ。

「ぼんやりしてないで、さっさと戻るよ」
「あっ、はい」

 春日さんに促され、私は立ち上がり会議室を後にした。

「これから、私たちはどうすればいいんですか?」

 廊下を歩きながら、私は目の前を歩く春日さんに尋ねる。

「今まで営業で回った所全部に行って、出来る限りたくさんの要望を聞く。マーケティング部でもアンケートを集計してるだろうから、それと合わせて改良点をまとめて開発部に送る」
「はい」
「ついでに秀麗の商品専門店に行くよ」
「えっ!? 大丈夫なんですか!?」

 驚く私に、春日さんは不敵に笑ってこう言った。

「なんかこういうトラブルがあったほうが、燃えるじゃん」


作品名:春日編 作家名:有馬音文