春日編
「ちょっと、まだ動いちゃ駄目ですよっ!」
「こんな所で寝ている場合じゃない。今日は大事な取引があるんだから。今何時?」
「駄目です! さっき先生が過労だって言ってました、春日さんお仕事頑張り過ぎなんです! 2、3日休んで下さい! 今日の取引は他の営業の方と行って来ますから!」
本当にこの人なに考えてるの!? 倒れた直後なのにもう仕事!?
「僕が行かなきゃ今日の仕事はうまく行かないんだ。あんたと他の人じゃ無理」
「どうして無理なんて分かるんですか! 私、一生懸命頑張りますから! 春日さんのお役に立ちますから! やる前から無理だなんて決めつけないでくださいっ!! 少しは周りの人間も信用してください!!」
冗談じゃないわ! 無理してまた倒れたらどうするつもりなの!?
「仕事のし過ぎです! 春日さんが過労死なんて事になったら、私は誰に仕事を教わればいいんですか? お願いだから、休んで下さい……」
や、やだ。涙が出て来た。
ぐいっと手の甲で涙を拭い、春日さんを睨みつける。
しばらく無言で私の顔を見ていた春日さんは、必死さが伝わったのか観念したようにため息を吐いた。
「……はあ。分かった。僕も今日は動けそうにないし、あんたに任せる。―――けど、もしも取引失敗したらもう二度とあんたの面倒は見ないから。そのつもりで営業に行って来てよね」
「はいっ! 頑張ります! 死にものぐるいで仕事取って来ます!!」
良かった! 取りあえず大人しく寝ててくれるのね! 後は部長に連絡して、春日さんのご家族に伝えてもらわなきゃ。
「私、会社に戻ります。ご家族に連絡するように伝えますから、寝てて下さい」
「そんなのいいから、さっさと仕事に行ってくれる? 取引先の会社の担当者と会う時間が迫ってるから」
「はい」
そんな事分かってるもん。もうちょっと言い方ってもんがあるでしょう? 本当に顔と正反対の性格なんだから。
「それじゃ、行ってきます」
すぐに病院を後にし、部長に連絡をする。
と、春日さんの実家はここから随分と遠いらしく、連絡はするけど来られないだろうという事だった。
春日さんって一人暮らしだったんだ。男の人の一人暮らしじゃ、栄養不足になってもおかしくないよね。あ、でもきっと彼女とかいるだろうから、やっぱり仕事が忙しくて疲れが溜まってるのよ。
取りあえず部長にお願いして他の営業で時間のある人を寄越してもらうようお願いし、私は取引先へと向かった。