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春日編

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 会社を出てタクシーを拾い、教えられた病院へと急いだ。受付で春日さんがいる場所を聞き、病室へと今度は小走りに急ぐ。

「あの、すみません。こちらに春日雅さんが運ばれたと伺ったのですが……」

 ドアから出て来た看護士さんを捕まえて尋ねると、優しく微笑んでこう言った。

「春日さんのご家族の方ですか? 随分と無理をされていたみたいで今は眠っておられますけど、しばらく休めば大丈夫ですから安心してくださいね」
「はあ、中に入っても大丈夫ですか?」
「ええどうぞ」

 家族に見えるかな? 似てないのに。
 そんな事を考えて遠慮がちにノックをする。男性の低い声で返事が返って来て、私は静かに中に入った。
 中には白衣を着た先生がいて、ベッドの上には春日さんが横になっている。顔色が真っ白だ。

「ご家族の方ですか?」
「い、いえ。春日の部下です……」
「会社の方ですか」
「あの、春日はどうして救急車で?」
「出社途中に駅のホームで倒れたみたいですね。診察した所、かなり無理をしていたみたいです。いわゆる過労です」
「過労?」
「寝不足と栄養不足です」
「酷い病気とかじゃないんですね?」

 良かった―――。でも、過労だなんてそんなに無理してお仕事してたんだ。
 私がほっとしたのが分かったのか、中年のお医者さんは点滴をいじって小さく頷く。

「2、3日入院して休養を取れば大丈夫。ご家族に連絡出来ますか?」
「あ、はい。会社の方に頼みます」
「お願いします。ではまた後で様子を見にくるので」
「ありがとうございました」

 病室を出て行くお医者さんにペコリと頭を下げ、春日さんのベッド脇に立ってその姿を見つめる。
 労働基準法違反じゃないの? あの鬼社長、春日さんをこき使ってたのね。
 なんだか無性に腹が立つ。と、その時春日さんがうっすらと目を開けた。

「春日さん、大丈夫ですか? 分かりますか?」

 私の問いにこちらに顔を向け、驚いたように目を見張る。

「あんた、なんで? て、ここどこ?」
「ここは病院です。春日さん出社途中に倒れて、救急車で運ばれたんですよ」
「―――あ」

 思い出したらしく、春日さんは顔をしかめてベッドから起き上がろうとした。

作品名:春日編 作家名:有馬音文