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就職難民 黙って俺についてこい!

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「え、営業部……ですか」
「そうだ。入るぞ」

 扉を開けると、営業部員達が社長に対し一斉に挨拶する。彼らを個別に認識する前に、一番手前にいた巻き毛の男性が、人懐っこい笑みを浮かべながら社長の元へと近付いてきた。

「社長、見て下さい。僕、昨日また新しい契約取れちゃいました~」
「む、大手じゃないか。さすがだな、春日」
「ふふっ。とーぜんですよ! やっぱ僕って優秀みたいで~」

 私の事は全く無視して、いきなり始まったこの会話……。な、なんなの? 社長に対してこの口調。いやそれ以前に、彼がひらひらと見せつけるかのように掲げている契約書に書かれている文字は、あの有名デパート!?
 驚きを隠せない私を視線の端に捉えた春日と呼ばれた男性は、あからさまに不審そうに眉間に皺を寄せた。その視線に気付き社長が私を紹介する。

「ああ、紹介しよう。葉月水那だ。年はお前の一つ下だな。葉月、こいつは営業部期待の超新星 春日 雅(かすが みやび)だ」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしく」

 さもどうでも良さそうに春日さんは私の挨拶に軽く会釈しただけだった。

「で、その葉月さんが何か御用でも?」
「まだ決定ではないが、こっちで厄介になるかもしれん」
「それって――この営業部に?」
「ああ、そうだ」
「ふぅん……。ま、営業なんていくらいても困るものでもありませんから、それが社長の決定なら異論はありませんけど」
「その場合はお前の下に付く事になる」
「えぇ!?」

 と驚きの声を上げたのは勿論私。そんな私を社長は呆れた顔で見返してくる。いやいや私からしたら、寧ろ今まで黙ってちゃんと聞いていた事を褒めてほしいくらいだわ。いきなり営業部だって言われて、営業部の期待の星の冷たい視線にも堪えていたんだから! そんな私の心情など露ほども知らない社長は、今日何度目かの呆れ顔を浮かべている。

「一々驚くな。うっとうしい」
「で、でもっ」

 こんな年齢的にも変わらない子の元で~!? しかも無駄に偉そうだし、なんかさっきからずっと私の事睨んでるんですけど!

「……僕は別にかまいませんけど」
「そうか」
「ええ。社長の決定にはどんな事にも従い、そして結果を出す――それが美成堂の社員というものですから」

 そう言って姿勢を正した春日さんを改めて観察してみる。この人が私の上司になるかもしれないんだ……。私より一つ年上って言ってたけど、体つきも華奢だし可愛らしい顔立ちをしているから容姿だけなら年齢よりも若く見える。でも立ち居振る舞いが私なんかよりずっと大人で、とても1歳差とは思えない。くるんと巻いた巻き毛は宗教画の天使みたいでよく似合っている――のだけど、その視線には何か意地悪なものを感じる。さも何かを企んでいそうに不敵に、しかしあくまでも愛らしく、春日さんは私に向って微笑みかけた。
 そんな春日さんに「社長の決定にはどんな事にも従い」なんていう絶対服従な言葉を吐かれた社長は満足そうに微笑んでいる。引くわ。正直、引くわ。ていうか春日さんも社長と同じ位底意地が悪いに違いない……。私の直感が危険を告げている。そんな考察をしていると、社長がくるりと半身を返して扉の方へと体を傾けた。

「まぁそう言う事だ。俺はこいつを他にも連れていく所がある。最終的な決定はまた通達する。では」
「はい! お疲れ様です!」

 私には何も言わずにさっさと営業部を後にした社長の後を追いかけようとした私に、営業部員達の鋭い視線が突き刺さる。そりゃそうよね……。なんでこんな時期に新入社員が? しかも社長直々に、って普通思うよね。簡単に一礼だけを済ませて廊下に出ると、気絶寸前なまでに緊張していた私は思わずひとつ息をついた。

「次は――写真部だな」
「写真部――ですか」

 そんな私の様子を気にとめるでもなく、社長は次の場所へと私を案内するべく長い足で優雅に廊下を先へと進む。