小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

就職難民 黙って俺についてこい!

INDEX|2ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

***


「ぷはーーーーっ! 私のっ、なにがダメなのよっ! 長所はぁ、頑張りやさんですっ! あははははははははーーー」
「ちょっと、水那アンタいくらなんでも飲み過ぎよ」
「飲みしゅぎぃ? あははははっ! カレン~~~」
「なんなのよっ」

 カレンが連れて来てくれたオシャレなバーで、私はベロンベロンに出来あがっていた。もう何かよく分からないけど、とにかく全てが面白くって仕方がない。

「はぁ……そういえばアンタって酒癖にちょっと難アリ……だったわね」
「難アリってどゆこと!? あはははははっ」
「あのねぇ……」
「飲んじゃう! 飲んじゃいますよぉ~~っ、そぉれい!」
「ちょっと!」

 勢いよくワインボトルを手にとって、そのまま赤い液体を口に運ぼうとしたその時――

「っとっとっと……」
「水那危ないっ!」

 バランスを崩し、ソファーに足を取られた私は完全にワインボトルごとひっくり返っ――――

 トスンッ

「……あれ?」

 斜めになった体は、何か大きくて暖かいものによって支えられ、私は倒れずに済んだ。

「あっ」
「ん?」

 カレンが私の頭上を見て驚いたような顔をした。それにつられ、私も頭上へと視線をずらす。

「曲がりなりにも女が、そんな状態になるまで酒を飲むのは感心しないな」

 低いが良く通る声が真上から聞こえ、いつの間にか取り上げられたワインボトルと一緒に私はカレンの隣りに座らせられた。

「あなたは誰ですかぁ?」

 私を受け止めた人は、いかにもお金のかかってそうな上質なスーツを身にまとい、有能さを表すかのようなブランド物の眼鏡をかけたイケメンだった。そんな男性に思わず前のめりで接近してしまう。

「おい、蓮治。この女はなんなんだ」
「なぁにぃ? カレンの知り合い?」

 蓮治と呼ばれたカレンは、その呼び名からか――はたまた別の理由でもあるのかは分からないが、顔を引きつらせながら私と男性を見比べたあと、擦れた声でこう言った。

「しゃ、社長……」

 …………。

 カレンの放った言葉の意味を理解するのに、しばしの時間が過ぎて、そして―――

「ええええええっ!? しゃ、社長!? って、も、もしかして!?」
「そう、美成堂の御影山 綾人(みかげやま あやと)社長よ」

 カレンがそう紹介すると、御影山社長は私を冷たく見下ろした。

「蓮司、お前の友人は随分と品がないみたいだな」

 御影山社長は軽くため息まじりで私の事をそう言い放った。確かにかーなーりお酒が入っていて呂律も怪しいかもしれないけど、『品がない』ってどういうこと!? イケメンで社長だからって何言っても許されると思ったら大間違いなんだから!

「私の事、知りもしないろに、品がないとか勝手に決めつけないれくらさい!」
「ちょっと水那、酔っぱらいが何言っても説得力ないわよ」
「らいたい、ろーしてカレンのとこの社長さんが、ここにいるんれすか? ……あ!? もしかしてカレンが私のしゅーしょくの為に?」

 目を輝かせてカレンを見ると、困ったように首を横に振る。
 ……なーんだ、違うのか、ざーんねーん。って当り前かぁー。

「なんだ、就職が決まらないのか?」

 御影山社長がじっと私を見つめる。本当にイケメンだなぁー。思わず顔がにやつきそうになるのを、辛うじて残っていた理性で食い止めようとして、なんだか逆に睨みつけるような形になってしまっている。けど、気にしなーい気にしなーい!

「そうれすよ。こんなに頑張り屋さんなのに、どっこも私を採用してくれないんれす! 見る目がないんれす! どんな仕事でも全力でやって結果を出せる自信があるのに、採用してくれなきゃ仕事が出来るかどうか分からないやないれすか!!」
「ほう。それならうちで働くか?」
「えっ!?」

 驚いたのは私と、隣りにいて声を上げたカレン。同時に御影山社長に視線を集めると、

「どんな仕事でも結果を出す自信があるんだろう? それともお前が今言った言葉ははったりか?」

 今言われた言葉をもう一度頭の中で繰り返し、その意味を理解すると一気に酔いが醒めた私は、背筋を伸ばして真っ直ぐに御影山社長に向き直った。

「で、出来ます! 何でもやります!」
「ちょっと水那!?」
「ちょうど新商品をプロデュースしようとしていた所だ。どの部署でもいい、お前が結果を出せる部署にぶちこんでやるから好きな部署を選べ。その代わり、結果を出せなかった時は一生うちのビルの清掃係だ」

 何と言うことだろう。まさか、こんな形で就職のチャンスが来るなんて。私は再び背筋を伸ばし、御影山社長に深々と頭を下げた。

「ありがとうございます! 絶対に結果を出してみせます。社長のおっしゃるように、結果を出せなかったら掃除でも何でもします! よろしくお願いします!!」
「水那、あんた本気なの!?」

 おろおろするカレンを他所に、私は不敵に笑みを浮かべる御影山社長のその端正な顔から、決して目をそらす事はしなかった。