就職難民 黙って俺についてこい!
1
――――何枚書いたか分からない。
履歴書も、エントリーシートも……。
私に出来る精一杯の努力をしているし、心が折れそうになっても何とか前向きな気持ちを保つようにして頑張っている。それでも内定はまだ貰えていない。どこにも引っかからない、崖っぷちの大学4年生、それが私――七瀬 水那(ななせ みな)だ。
今日は1日部屋にこもって、ネットや参考書で情報を収集していた。採用される履歴書、ESの書き方。なんとか面接にだけでも進みたい。そうすればまた少し気力が湧いてくるから。ここ最近は面接にすらこぎ着けていない。そんな焦る気持ちを押さえながら、新しい履歴書を出してペンを握った次の瞬間、見事に手が滑ってしまい履歴書には無残な斜線が入ってしまった。
「ダメだぁ……」
どう考えても疲労の限界にきていた。
休もうにも気持ちが焦って休めない。就活ノイローゼになりそう。ううん、もうなってるのかな? なんて事を思ってたら、ふいに涙が零れてきて……。ああー、もう本格的にダメだ私……。
「水那!」
落ち込んでいると、突然大声で名前を呼ばれて思わず体がビクッとなった。
何事かと声のした方を振り返ると、そこには長い髪を綺麗にまとめた美女がいた。
「カレン!」
「はーっ……。ノックしても名前呼んでも返事がないんだもの。勝手に入らせてもらったわよ」
そう言うと目の前の美女は、何の遠慮もなく私の部屋へとずかずかと侵入してきた。といっても私にはそれが不快じゃない。むしろ馴染み深いその顔を見て安堵したくらいだ。
私がカレンと呼んだこの美女は3歳上の幼馴染。フルネームは「匂坂 蓮治(さきさか れんじ)」。れっきとした男性。だけど美女――分かりやすく言えばカレンはいわゆるおネエ系。だからなのか子供の頃からお人形遊びやままごとが大好きで、よく一緒に遊んでた。幼い頃から顔立ちも私なんかよりずっと綺麗だから、そんなカレンとの関係に違和感を覚えた事はなかった。中高生の頃なんかも一緒に買い物に行ったりしてたけど、そんな時は私より美人なカレンがちょっと羨ましかったくらいだ。
なんで『カレン』なのかっていうと、蓮治って呼ばれることがカレンが嫌がるのと苗字の最後と名前の最初を繋げて『カレン』って呼んでね! って事みたい。私はカレンっていう呼び名は綺麗で可愛くてカレンにぴったりだから、実は結構気に入っている。
「き、急にどうしたの?」
なんて子供時代に若干の想いを馳せつつも、突然現れた幼馴染の顔を戸惑いながら見上げると、カレンはまた大きくため息をついた。
「アンタ、ダメよ! なんかもう幸せが荷物まとめて逃げてきそうな顔してるじゃない」
「……だって」
「そんなんじゃダメ。……就職決まる前に、水那がまいっちゃうわ」
……そういう事か。
私が落ち込んでるのを察知して、心配してきてくれたんだ。昔からカレンは人の感情を読み取るのが上手い。いくら笑顔でいても、メールで元気に振舞っても、心が泣いていたらカレンには全てお見通しなのだ。
だから、今も―――。
長年付き合ってきても変わらないカレンの優しさに、また涙線が刺激されてしまう。思わず目に涙が溜まってきた私の顔を見つめると、カレンは優しく微笑んだ後そっと口を開いた。
「気分転換に飲みにでもいきましょ」
「え、でも……」
「でもじゃないの。アンタもう自分じゃ気分転換なんて、出来なくなってるでしょう」
その通りだった。
自分でも気分転換は必要だと分かっているのに、焦りがそれを許してくれなかった。
カレンは私の肩にそっと手を置くと、促すような視線を向ける。
「いい店見つけたの。さ、着替えて。お化粧しましょ。なんなら私がしてあげよっか?」
「ホント? じゃあカレンにメイクしてもらおうかな」
「お任せあれ~」
カレンと話していると、心が少しずつ浮かび上がってくる。さっきまではどこにも出かけたくなんて無かったのに、今は久しぶりのカレンとの外食が楽しみになってきていたりして。我ながらゲンキンだとは思うけど……。しかも実はこのカレン、大手の化粧品メーカー美成堂のメイクアップアーティストなの。その腕は抜群で、カレンにお化粧してもらうと、いつもの自分よりグッと可愛くなれる気がする。だからカレンが化粧してあげよっか? って言ってくれたのが、凄く嬉しい。今の私には何よりの魔法。
そんな事を思っている間にも、テキパキと手を動かすカレン。黒いアイラインで囲まれた切れ長の瞳に、長くて艶のあるまつ毛。本当に綺麗だなぁ……。
「はい、出来た」
なんてボーっとしている間に、カレンは私を完璧に‘仕上げ’た。鏡に映る自分は、さっきまでと違って明るくて顔色までも良く見える。
「うわぁ、すごい! やっぱカレンにメイクして貰うと3割……、ううん5割増しに見えるね!」
「ふふっ、そんなに喜んで貰えると嬉しいわ。さ、この前買った可愛いワンピース、あれ着たら? すっごく似合ってたし」
「うん。ちょっと待っててね!」
カレンと話している内に、自分の心がどんどん元気になっていくのが分かる。そうだよね、自分で自分を追い詰めていても仕方がない。今日は、今日だけは全部忘れてリフレッシュしちゃおう!
――――何枚書いたか分からない。
履歴書も、エントリーシートも……。
私に出来る精一杯の努力をしているし、心が折れそうになっても何とか前向きな気持ちを保つようにして頑張っている。それでも内定はまだ貰えていない。どこにも引っかからない、崖っぷちの大学4年生、それが私――七瀬 水那(ななせ みな)だ。
今日は1日部屋にこもって、ネットや参考書で情報を収集していた。採用される履歴書、ESの書き方。なんとか面接にだけでも進みたい。そうすればまた少し気力が湧いてくるから。ここ最近は面接にすらこぎ着けていない。そんな焦る気持ちを押さえながら、新しい履歴書を出してペンを握った次の瞬間、見事に手が滑ってしまい履歴書には無残な斜線が入ってしまった。
「ダメだぁ……」
どう考えても疲労の限界にきていた。
休もうにも気持ちが焦って休めない。就活ノイローゼになりそう。ううん、もうなってるのかな? なんて事を思ってたら、ふいに涙が零れてきて……。ああー、もう本格的にダメだ私……。
「水那!」
落ち込んでいると、突然大声で名前を呼ばれて思わず体がビクッとなった。
何事かと声のした方を振り返ると、そこには長い髪を綺麗にまとめた美女がいた。
「カレン!」
「はーっ……。ノックしても名前呼んでも返事がないんだもの。勝手に入らせてもらったわよ」
そう言うと目の前の美女は、何の遠慮もなく私の部屋へとずかずかと侵入してきた。といっても私にはそれが不快じゃない。むしろ馴染み深いその顔を見て安堵したくらいだ。
私がカレンと呼んだこの美女は3歳上の幼馴染。フルネームは「匂坂 蓮治(さきさか れんじ)」。れっきとした男性。だけど美女――分かりやすく言えばカレンはいわゆるおネエ系。だからなのか子供の頃からお人形遊びやままごとが大好きで、よく一緒に遊んでた。幼い頃から顔立ちも私なんかよりずっと綺麗だから、そんなカレンとの関係に違和感を覚えた事はなかった。中高生の頃なんかも一緒に買い物に行ったりしてたけど、そんな時は私より美人なカレンがちょっと羨ましかったくらいだ。
なんで『カレン』なのかっていうと、蓮治って呼ばれることがカレンが嫌がるのと苗字の最後と名前の最初を繋げて『カレン』って呼んでね! って事みたい。私はカレンっていう呼び名は綺麗で可愛くてカレンにぴったりだから、実は結構気に入っている。
「き、急にどうしたの?」
なんて子供時代に若干の想いを馳せつつも、突然現れた幼馴染の顔を戸惑いながら見上げると、カレンはまた大きくため息をついた。
「アンタ、ダメよ! なんかもう幸せが荷物まとめて逃げてきそうな顔してるじゃない」
「……だって」
「そんなんじゃダメ。……就職決まる前に、水那がまいっちゃうわ」
……そういう事か。
私が落ち込んでるのを察知して、心配してきてくれたんだ。昔からカレンは人の感情を読み取るのが上手い。いくら笑顔でいても、メールで元気に振舞っても、心が泣いていたらカレンには全てお見通しなのだ。
だから、今も―――。
長年付き合ってきても変わらないカレンの優しさに、また涙線が刺激されてしまう。思わず目に涙が溜まってきた私の顔を見つめると、カレンは優しく微笑んだ後そっと口を開いた。
「気分転換に飲みにでもいきましょ」
「え、でも……」
「でもじゃないの。アンタもう自分じゃ気分転換なんて、出来なくなってるでしょう」
その通りだった。
自分でも気分転換は必要だと分かっているのに、焦りがそれを許してくれなかった。
カレンは私の肩にそっと手を置くと、促すような視線を向ける。
「いい店見つけたの。さ、着替えて。お化粧しましょ。なんなら私がしてあげよっか?」
「ホント? じゃあカレンにメイクしてもらおうかな」
「お任せあれ~」
カレンと話していると、心が少しずつ浮かび上がってくる。さっきまではどこにも出かけたくなんて無かったのに、今は久しぶりのカレンとの外食が楽しみになってきていたりして。我ながらゲンキンだとは思うけど……。しかも実はこのカレン、大手の化粧品メーカー美成堂のメイクアップアーティストなの。その腕は抜群で、カレンにお化粧してもらうと、いつもの自分よりグッと可愛くなれる気がする。だからカレンが化粧してあげよっか? って言ってくれたのが、凄く嬉しい。今の私には何よりの魔法。
そんな事を思っている間にも、テキパキと手を動かすカレン。黒いアイラインで囲まれた切れ長の瞳に、長くて艶のあるまつ毛。本当に綺麗だなぁ……。
「はい、出来た」
なんてボーっとしている間に、カレンは私を完璧に‘仕上げ’た。鏡に映る自分は、さっきまでと違って明るくて顔色までも良く見える。
「うわぁ、すごい! やっぱカレンにメイクして貰うと3割……、ううん5割増しに見えるね!」
「ふふっ、そんなに喜んで貰えると嬉しいわ。さ、この前買った可愛いワンピース、あれ着たら? すっごく似合ってたし」
「うん。ちょっと待っててね!」
カレンと話している内に、自分の心がどんどん元気になっていくのが分かる。そうだよね、自分で自分を追い詰めていても仕方がない。今日は、今日だけは全部忘れてリフレッシュしちゃおう!
作品名:就職難民 黙って俺についてこい! 作家名:有馬音文