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秋月堂 / max
秋月堂 / max
novelistID. 17284
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ドラマチック・デスティニー

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「で、第一声が何だったと思う!? 『成海さんもねえヒゲを剃った自分を見習って、シャツをねえスカートの中に入れてくれるといいんですけどねえ』……だああああっ! なんで名指し!? ブン殴りたい! 二発、いや四発!!」
 あ、それで機嫌悪いのか今日は。そういえばシャツが入ってる姿は入部したての頃に何回か見てそれっきりだった気がするのでなんだか違和感がある。
「似合わないなー」
 指をさしてへらへら笑うと成海さんは激怒の視線をぶちまけてきた。
「うるさーい!」
 叫びながらシャツを豪快に引き抜く成海さん。正直おへそが見えて役得です。
「あー、すっきり。もうなんかこれだけでイライラしちゃって。カルシウムが全部ここで浪費されてる気分だったわ」
「分かりにくいけどそれ、脳に回されるカルシウムが不足したって話でいいんだよね?」
「解説されるとはずかしいんだけど」
「解説しないとむずかしいんだけど」
「その変に上手く被せてくるのやめてくれる、早島くん?」
「考えとく」
「お前らの漫才はホントに面白いよなー」
 ケラケラと笑いながら鉄山先輩が会話に入ってきた。
「中学一緒だったんだっけ?」
「いえ」
「別に」
「……別に、はおかしくないかしら」
「かもしれない」
 二人してうーむと考え込む。
 ……演劇部といえば大体こんな感じの部活である。
 陸上部は基本的に走っていればそのアイデンティティを維持することができる。それは僕たちから見れば非常にお手軽な部活動と言える。なぜかといえば、演劇部は演劇をしていないとそのアイデンティティが云々だからである。
 結果として僕たちはそういったものの獲得を半分くらいは放棄していたりする。
 成海さんが、不意につぶやいた。
「やっぱり、そうね……」
 何が、と聞く前にやはり素早く彼女は続けた。
「ウエスト周りをシャツが締め付けてくるのは許されざる感触なのよ」
「まだ気にしてたんだ」
「風を感じないといけないのよ、早島くん。走りましょう」
 なんだ今日は。
 成海さんのテンションが無駄に高いぞ。
「どうしたのさ?」
 彼女は僕の問いには答えず、おもむろに鞄の中からジャージを取り出して着替え始めた。スカートを履いたままジャージを着ける、女子特有の所作だが、これは完全に男からしてみたら視線のやり場に困るシチュエーション堂々トップクラスだ。
 そうしてジャージを履き終えてスカートを脱ぐところまではよかったのだがワイシャツのボタンをためらうことなく外しだしたところで僕と鉄山先輩は同時に互いの肩を抱きながら一三三教室をそそくさと抜け出した。
 可能であれば、成海さんの耳に届くように、二人でユニゾンの「アイツ絶対露出狂だ」とのコメントを残しながら。
 閉じたドアにボフンと黒板消しがぶつかる音がした。
「……いやあれ成海さんが悪いでしょ鉄山先輩」
「完全に仰るとおりだと思う」
「ねー」
「ねー」
「聞こえてるわよ!」
 またガラリ、とドアが開く。
 着替えるのまで素早いのかよとツッコミを入れる前に成海さんの宣言が響き渡る。
「さあ、分かってるわね早島くん。走りましょう」
 ジャージの上着までは着ていない成海さんが胸を張る。
 まあ、つまり上はTシャツ一枚というわけで、季節柄これで正しいのは言うまでもないのだが、その、役得だ。背の低い彼女。肩幅も狭い彼女。そして、いや、これ以上は止したほうがよさそうだ。心の声を感知されかねない。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど……」
 こちらがうなだれると、シーソーと同じ要領で成海さんの鼻が高くなるらしい。
「うん。テンション上がっちゃってさ」
「わ、早速一つ目の疑問点が解決した。うやむやとした結論で」
「じゃあ二つ目の質問は何? あ、鉄山先輩は裁縫しててもらってもいいですよ。早島くんと二人で行ってきますので」
「俺爪弾きにされるのか!?」
「矢継ぎ早に二つ目の疑問も攻略されてしまった……」
「もういい? 行きましょう。ゴールデンウィークでちょっと太っちゃって」
「三つ目が最後だったんで僕は大人しく付き合うことにします行ってきます」
「行ってこーい。そこそこで戻って来いよ」
 手を振って見送る鉄山先輩に送り出されて僕と成海さんはグラウンドに繰り出すことにした。
 まだ来てない部長、斎藤先輩ごめんなさい。僕は真面目に演劇部したいんですけども。

「やっぱり私、こんな風に思うのよ」
 いくら成海さんがパワフルだからといって。
「演劇部に所属してるからには、演劇に勤しむべきだ、ってね」
 彼女がそこまで健脚なわけではない。
 走るペースは一般的な女子高生の平均となんら変わらないものだろう。僕も男子高生として特別に逸脱しているわけでもないから、僕らのジョギングは至極まったりとしたものになっていた。
 彼女は走りながら話している。無言の僕と比べても少し息が上がっているようだ。彼女の上気した顔はなるべく見ないようにしている。思考を読まれて一日中無視された回数はすでに三回を数えているからだ。
「演劇とはかくあるべきか。こないだ見に行った素人舞台は別だけど、下手したら私たちだってあのレベルのものしかできないかもしれないでしょ?」
「うん」
 クエスチョンマークが飛んできては返事しないわけにはいかない。呼吸の音と間違えるくらいの小ささで僕は頷いておく。
「だから基礎となる練習を反復しておく。ここに異論はないわ」
「だね」
「でも、そろそろ演劇をしてみたいとか思わない?」
 またクエスチョンだ。
 これは返事を短くするわけにはいかない。僕は立ち止まって彼女に向き直った。
 成海さんも立ち止まる。ふうふうと息を荒げているのを見ると、放っておいてももう少ししたら走り終えていたのかもしれない。
 グラウンドでは野球部やサッカー部、端っこでラグビー部などが練習をしている。テニスコートは一度学校の敷地を出て道路を挟んだ先にある。プールの無いうちの高校に水泳部は無い。体育会系の部活は様々あれども、まさか彼らも、その周囲を演劇部が走りこみをしているとは思うまい。走り始めて一周程度でバテるのは、予想の範疇かもしれないが。先述の通り、今日は気温も高い。僕もやや限界だった。
「演劇をする……かぁ。まぁ、確かに思うけど」
「…………? 煮え切らないわね?」
「前に話さなかったっけ。僕、どっちかっていうと、出演するよりも脚本を書くほうをやりたいって」
「ああそのこと」
 疑問から合点。シンプルな速さで彼女は理解をして再び歩き始めた。その足は部室に向かっているようだ。
「どっちでも一緒じゃない? 結局は私たちが演劇をするわけだから」
 太陽が一瞬だけ光を増したように、僕の目を襲ってきた。目を反射的に閉じるが、成海さんはその隙に一歩先に進んだ。顔を見せないように。
「早く始まらないかな、演劇。小さい頃からずっと演技をしてみたかったの。小学校の学芸会でも、中学のときに行った老人ホームの訪問でも、全部出来る時には演技をしてきたわ」
「すごいね、でも」
「物足りなかった。って続けて言うこと、早島くんなら予想してるでしょ?」
 むしろ、お見通しだろうことまで予想していた。