Chat Noir
「マスターの相棒? 捕まえる?」
二十代の声は、ウェイトレスの上戸由香里だ。
「いくら独身でも、もう少しマシなのを連れ込みなよ!」
最初の声が由香里なので安心した。
彼女なら子連れのヒグマでも余裕だろう。
どうやら私の出番は無さそうだ。
「Dead or Alive?」
黙っていても終ると思っていたが、ここで返事をするハメになった。
たぶん、見知らぬ場所に混乱したのか……
捨てられたと誤解したのか……
ただ、興奮しているだけなのだ。
少女との約束もある。
バラバラに散らばったパーツを集めていては、夜の営業にも差し支える。
「生きたまま、捕まえてくれ」
チッ、と言う舌打ちがクローズハイハットのように聞こえた。
部屋に入ると、ちょうど格闘が始まるところだった。
黒い生き物は、奥の一番高い棚の中にいた。
ぼやけた輪郭に、双眸と思える二つの光。
一つは青く、もう一つは金色に輝いていた。
由香里は、平野を侵す海霧のように静かに近づいて行った。
無音。
彼女の流派は何なのか……
拳法なのか体術なのかさえ、私は知らない。
ただ、静かだった。
突然、棚から黒い稲妻が宙を走った。