Chat Noir
彼女の腕から弾けた黒い影は、私を無視して真っ直ぐ厨房に向った。
そして、棚から物が落ちる音。
見知らぬ場所に、かなり興奮しているようだ。
後片付けをしている、女性二人の悲鳴を期待したのだが……
残念ながら何も聞こえなかった。
「ちょっと待っているんだよ」
一応、名の知れたレストランだ、窓も裏口のドアも開け放たれてはいない。
怪しい術を使わない限り、逃げられはしないのだ。
「大丈夫、必ず捕まえてあげる」
自分は大人だ。
焦る姿を子供に見せたくはなかった。
椅子に座らせ、コップに氷と水を入れ彼女に勧めた。
ここでウインクでも出来れば絵になるのだが、両目を閉じそうなので遠慮した。
ゆっくり厨房に歩き出すと、声が聞こえた。