Chat Noir
場違いを察したのか……
うつむいたまま、人形のように動かない少女。
彼女から少し離れた所で、私は膝を曲げ腰を落とした。
小さな子供と話す時と、最前線を複数で偵察する時は、出来る限り姿勢を低くする。
子供に威圧的に映らないように、狙撃手に最初の標的にならないように。
どちらも、ファストフード店のマニュアルに書いてあったハズだ。
「いらっしゃいませ」
彼女が練乳入りのホットミルクを注文するのを期待したが……
そんなに甘くは無かった。
「どうしたのかな?」
よく見ると、頬が微かに上気して髪が乱れていた。
黒革のショートブーツに、薄っすらと埃が乗っていた。
付近から来たのでは無いようだ。
一日中、カウンター内の指定席から窓の外を眺めていた。
特徴のある少女を忘れるとも思えない。
その時、彼女が大切そうに抱きかかえていたバスタオルが激しく動いた。
「あっ!」と言う、初めての声を聞いた。
私も叫び声を出したかったが、彼女より可愛く言う自信は無かった。