Chat Noir
「 طعميم، جرش وجرشييم. طعميم، جرش وجرشييم. 」
少女の声が、はっきりと聞こえた。
彼女の言葉は優しく明瞭で、呪文というより祈祷に近かった。
微塵の悪意もなく、神秘的実在と自己の合一を得るための祈りだった。
ただ、純粋で無邪気な分、単純で残酷でもあった。
動きを止められた妖獣の息が荒くなった。
体が大きく震え出し、二色の双眼の視点が定まっていない。
その首根っこを掴んでいた由香里が、心配そうに見詰めている。
危険だ。
私は、軽く少女の肩を叩いた。
「もう、いいだろう?」
我に返った少女は……少しの間、自分のした事が信じられないようだった。
由香里が手を離すと、黒猫が音も無く崩れ落ちた。
少女の温もりを感じながら抱かれていた黒猫は……
今は、冷たいステンレスの作業台の上で静かに横たわっていた。