まほうのかがみ
お城に呼ばれた一人の魔法使いは、夜のような真っ黒な髪に、雪のような白い肌をもった男でした。
魔法使いの証であるローブと星のブローチをつけていました。
王様は魔法使いに言いました。
「魔法使い。おまえは人の嘘を暴くかがみが作れるか?」
そして魔法使いは王様にこたえました。
「いいえ、王さま。私が作れるのは人の”こころ”を映すかがみだけです」
「人の”こころ”?」
「そうです、王さま。私の魔法のかがみはその人の”こころ”を映します」
例えその人の姿が醜かろうとも、その”こころ”が美しければその姿は美しく。
例えその人の姿が美しかろうとも、その”こころ”が醜ければその姿は醜く。
「その姿を映すのです」
そうこたえました。
王様はそのこたえに特に考えを浮かばせることも無く
「ではそれを作れ」
そう告げました。
魔法使いはそれに頷くと三日だけ待って欲しいと告げて城を後にした。
それからきっかり三日後。
魔法使いは一つの鏡をもって城を訪れました。
それは派手な装飾も無いとても質素な、けれど美しさを秘めた鏡でした。
「これは人の”こころ”を映す魔法のかがみです」
魔法使いはそう言いました。
王様は家来の一人を魔法のかがみの前に立たせました。
その家来は以前に城の調度品を盗んだと疑いをかけられていました。
家来は恐る恐る鏡の前に立ちます。
鏡に映る家来の姿は、未知の物に戸惑う鏡の前の家来とは違い、しゃんと背筋を伸ばした真っ直ぐな姿でした。
それは何も恥じることをしていないという家来の”こころ”の姿でした。
魔法使いの持ってきたその鏡は、確かに人の”こころ”を映す魔法のかがみだったのです。
王様は魔法のかがみに大満足です。
その日から王様は何か物事を決めるとき、それを任せるにふさわしい人間を選ぶ為、必ず魔法のかがみを使いました。
おかげで不当な疑いで罰を言い渡される”ざいにん”も、罰から逃げようと欺く”ざいにん”もなくなりました。
何か悪いことをしても、すぐに魔法のかがみによって暴かれてしまう。
ちいさな国から”ざいにん”はいなくなりました。