まほうのかがみ
その日の夜のことでした。
魔法の鏡の部屋にひとり、誰かが入っていきます。
それはうつくしい王女さまでした。
うつくしい王女さまは部屋へはいると、部屋の真ん中においてある鏡には目もくれず、部屋の隅。汚らしい布のかかった鏡のそばに向かいます。
お妃さまのブローチを壊したのはうつくしい王女さまだったのです。
うつくしい王女さまは自分の嘘を隠そうと、こどもの時に一度みた、あの魔法の鏡にそっくりな"できそこないの鏡"を本物の魔法の鏡とすりかえてしまいました。
そして、そのことは誰にも知られぬまま、次の日が来てしまいました。
二人は王さまと、その家来と一緒に、魔法の鏡の部屋にいました。
最初にうつくしい王女さまが鏡の前にたちました。
魔法の鏡にはうつくしい王女さまがそのうつくしさのまま立っていました。
「さすがはうつくしい王女さま。その"こころ"の何とうつくしいことか!」
まわりの者はそういってうつくしい王女さまを褒め称えました。
それが偽りであることを彼らは知りません。
その鏡に"しんじつ"が映るはずがないことを、彼らは知りません。
だってそれは"魔法の鏡"になれなかった"できそこないの鏡"なのです。
誰もそうとは知らず、次にみにくい娘を鏡のまえにたたせました。
それは、できそこないの、鏡なのです。
できそこないの、やくたたずの、なりそこないの
"しっぱいさく"なのです。
だから鏡は"しんじつ"を映しません。
だから鏡はみにくい娘を、ただみにくいままに映すことしかできません。
家来の誰かが言いました。
「"ざいにん"だ」
誰かが、言いました。
「嘘つきの"ざいにん"め!見ろ!その"こころ"の醜い姿を!!」
誰かが、言いました。
「嘘つきは"ざいにん"である」
王さまは、言いました。
「"ざいにん"は裁かれなければならない」
そう、言いました。