まほうのかがみ
さて、そのうつくしい国には、それはそれは、うつくしい王女さまがいました。
髪はまるで、ひまわりのように華やかな金色で、瞳は青空を切り取ったように鮮やかで、声は鈴を鳴らすように愛らしい。
神さまに愛されたようにうつくしい美貌を持ち、髪飾りや首飾りにはきらきらした宝石が飾られ、きれいなドレスを着たうつくしい王女さまがいました。
うつくしい王女さま。
そんな王女さまにはいつも一緒にいる侍女がいました。
それはとてもとても、みにくいむすめです。
髪は土のように薄汚れた茶色でごわごわとしています。瞳は水にこぼしたインクのような灰色。肌は土いじりなどの外の仕事のせいで日に焼けて浅黒い。
侍女はその髪と瞳を隠す為にいつもボロくて汚い布を頭からかぶり、それと同じくらいボロくて汚い服を着た、それはそれは、みにくいむすめでした。
そんな正反対な二人。
それでも、ふたりはとても仲良しだったのです。
ふたりはいつも一緒に遊んでいました。
時には森で多くのものに触れて遊びました。
時には町に出て色々なものを見て遊びました。
そして、今日はお城のなかを探検してあそぶことにしました。
城の中を歩いていたふたりは、やがていちばん空にちかい部屋。そう、魔法の鏡のある部屋にたどり着いたのです。
ふたりは中へと入ります。
部屋を見るとそこにはふたつの鏡がありました。
ひとつは魔法の鏡です。
薄い布をかけられた鏡は部屋のまんなかにおかれていました。
もうひとつは普通の鏡でした。
部屋の隅にたおしておかれた鏡は、汚らしい布の下、忘れられたようにおかれていました。
ふたりは布をとり、のぞきこみます。
なんにも、ふしぎなことはおこりません。
けれど、それは魔法の鏡にそっくりでした。
きっとこれは"しっぱいさく"なのだ。ふたりはそう思いました。
魔法の鏡を作るそのときに、魔法にかかりそこなったできそこない。
あることさえ、わすれられた"できそこない"。
"やくたたずの鏡"なのだと。
ふたりはそう思いました。
ふたりはそのできそこないの鏡に元のように汚らしい布をかけて部屋をでていきました。
それからいくつかの月日がたちました。
王女さまはそのうつくしさに更に磨きをかけ、それはそれはうつくしい王女様になりました。
そして、うつくしい王女様のそばには、相変わらず、みにくい娘が侍女として共にいました。
いくら月日がたとうと、ふたりは一緒にいました。