まほうのかがみ
「いったいこれは何なのだ」
王様は問います。
魔法使いがまた、魔法のかがみを持ってきたと思ったからです。
しかし、魔法使いはこういいました。
「これは魔法のかがみではありません」
そう、言いました。
「ではこれは何なのだ」
王様は問います。
「これはただの鏡です。王さま」
魔法使いは鏡を手に取り言葉を続けます。
「この鏡は人の”こころ”をうつしません。ただの鏡なのです」
その言葉に王様は首を傾げます。
なぜ自分に魔法のかかっていない鏡が必要なのか、王様にはそれがわからないからです。
「王さま。あなたは魔法のかがみに頼ることで人の”こころ”と向き合うことを拒絶している」
魔法使いは言います。
「魔法のかがみに頼りきって、じぶんの瞳は閉じたまま」
そんなことは間違っているのだと、魔法使いは言います。
そして魔法使いは家来に囲まれました。
王様に無礼な言葉を放つ人間は立派な不敬罪の”ざいにん”だからです。
それでも魔法使いは黙りません。
「あなたは、わたしを友とよびました。けれど、それは魔法のかがみで見たわたしの”こころ”があったからだと、王さまはいいました」
王様は戸惑います。それがどうしたのかと。
「違う…違うのですよ、王さま。友とは…心を許せる人というのは、お互いにあゆみより、時には裏切られ、時に間違い、時にすれ違い。それでも時間をかけてむきあうことでそれを許し、それを正し、その手をとれる人こそ、友というのです」
魔法使いは玉座のすぐ側に置かれた魔法のかがみを指差します。
「あなたはその魔法のかがみに頼ることで人の”こころ”と向き合うことをやめてしまった……いいえ、きっともっと前からあなたは人の”こころ”から逃げていた」
王さま、独りぼっちの王さま。
「あなたにほんとうに必要なもの。それは魔法のかがみなどではありません」
「あなたは昔のまま。何も変わってなどいない」
「あなたが周りの人々の”こころ”を疑うかぎり、どれだけの人にかこまれたとしても」
王さま、わたしの大切な友よ。
「あなたはいつまでも独りぼっちだ」
一人の魔法使いは、ただの鏡に王様の姿を映して言いました。