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幼年記

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小学の二年か三年であったと思う。
学校の中休みに校庭のプールの裏へ行ったら、級友が何人か、下を向いてうろうろしている。
何をしているのか訊くと、毛虫を集めているのだと言う。
見ると草のぼうぼうに生えたプール裏の地面に、校庭の外縁から外して持ってきたコンクリートのどぶ板が置いてあって、その上へもう既に四、五匹、黒い指のような形が動いていた。
級友たちは皆手に手に木の枝切れを持っている。
それで毛虫を引っくり返し、腹を突付くと、どうかした弾みにその枝へくるりと巻きつくから、それを持って行って、どぶ板の上で振り落とすのである。

私も枝を見つけてきて、それでそこらの草を掻き分けていたら、ちょうど葉の裏にへばりついているのがいたから、同じように引っくり返して、突付いてみた。
そうするとやっぱりくるりと巻きつく。
なるほどと思いながら、また草を掻き分けると、あちらにもこちらにもいるから、片っ端から捕まえていった。
どの毛虫も、腹を突付くと定めのようにくるりと巻きつくのが大変面白く、夢中になって捕まえているうちに、三十分も三時間も分からなくなって、気が付いてみると、どぶ板の上が集めた毛虫で、穴のように黒くなっている。

集めたはいいけれどもそれをどうするかまでは考えていなかったので、処置を皆で相談したところ、まとめて潰そうということになったから、どぶ板をもう一枚、外縁から外して皆で担いで持ってきて、毛虫の上へ落とした。
コンクリート同士のぶつかり合うがちり、という音が聞こえるばかりで他には何の音もない。
不審に思って開けてみると、下の板が一面、鮮やかな緑に染まっている。
はじめはそれが何だか分からなかったけれども、じきに毛虫の中身が飛び出して潰れたものだと知れた。
普段草ばかり食っているから、そんな色になったのだろう。

そのうちチャイムが鳴ったから、慌てて教室へ戻ったら、教室では中休みどころか昼休みまで終わっていて、担任の教師にひどく叱られた。
頭に来たので、帰り道、プールの裏へ戻ってどぶ板の緑を枝の先に掬い、職員室へ忍び込んで、担任の椅子の裏へちょいと塗ってから、帰ってきた。
作品名:幼年記 作家名:水無瀬