「仮面の町」 第二十話(最終回)
「お待たせ、今日は冷えるな・・・」
平成元年12月、昭和が無くなってはじめての年も暮れようとしていた。
「警部!ご苦労様でした・・・」
山崎警部は年明け3月に55歳の定年を迎える。一旦退職はするがその後は経験を生かして臨時職員として採用が決まっていた。
「弘一くん、奥さんと子供は元気か?」
「はい、おかげさまで。どちらも元気ですよ。警部こそ奥様はお元気ですか?」
「元気にしてるよ。来年娘が結婚しそうなんだ・・・孫の顔が近々見れるかも知れんな」
「そうでしたか!おめでとうございます。そういえば雄一くんも来年結婚しますよ」
「今の社長か?」
「ええ、まだ雇われ社長ですが、多分結婚したら肇さんは名実ともに譲るでしょうね」
「キミもすっかり久能の人間になったな」
「そうですか?・・・なんだか不思議ですね、ハハハ」
「昨日の敵は今日の友か?あれほど許さないといっていたキミが、肇の頼みを聞いただなんていまだに信じられないよ」
「ええ、そうでしょうね。肇さんがボクの前で見せた涙にウソはないと信じられたんです。人は悪の限りを尽くすと今後は善を尽くすと言いますから、そのタイミングだったのでしょう・・・どんな人も苦しみから救われたいと願うものです。
肇さんも家系と世間から来る重圧に苦しめられていた部分があったようです。身分や由緒いわれに縛られて生きることの辛さを知らされましたね」
「だからといって何をしてもいいと言ういい訳にしてはいけないよな?」
「はい、もちろんです。肇さんにはまだ謝罪する勇気が残っていたことが救いになりましたね」
「キミは・・・寛容なだけでなく、人を見抜く力も備えているようだなあ・・・」
「褒めすぎですよ、警部・・・さあ、今夜は忘年会です。無礼講で飲みましょう!」
「そうだったな、じゃあやるか!」
作品名:「仮面の町」 第二十話(最終回) 作家名:てっしゅう