「仮面の町」 第二十話(最終回)
「そうじゃなければ、キミを会社に招いたりしないよ。父親には天木さんの存在と息子の世話をしてもらうことを話すよ。私の引退で息子が引き継ぐまで仮の社長に返り咲いてもらって会社の対面を繕う考えだ。今ねとっても清々しい気分なんだ。生まれて初めかも知れない」
「自分を苦しめていた罪から開放されたという事ですか?」
「まあ、それもあるが、自分の力量以上のことをしなくてよくなったという開放感かな」
「これほどの会社ですから、大変だったでしょうね」
「そう思うかい?」
「妻になる高木優子さんの父親は元は深谷家の人だったんです。なんでも先祖は深谷紀美子さんだったと聞きました。あなたの先祖次郎さんの許婚だった女性ですよね?こうして自分が係わっている事の縁を感じさせられます。本当に憎みあう関係にならなくて良かったです」
「そうなのか!先祖次郎さまの・・・なんと言うことだ。周り巡って紀美子さんの霊が天木さんに乗り移って諫言を言うのか・・・」
「そうかも知れませんよ。あの夜優子と初めて食事をして送って行っての帰り、偶然とはいえ久能さんとこうして言い争うまでの縁を与えてくれたのは、自分に紀美子さんの魂があなたに正しい事を思い出すように仕向けた強い想いだったのかも知れませんよ。次郎さんへの未練が子供のそしてその孫のあなたに・・・最後の力を絞って伝えに来られたのでしょう・・・」
久能は泣いていた・・・鬼のようなその存在と思われていた肇が若い弘一の前で恥じらいもなく。
作品名:「仮面の町」 第二十話(最終回) 作家名:てっしゅう