「哀の川」 第三十七話(最終回)
純一の留学する日が来て、成田空港まで直樹と麻子それに由佳は見送りに来ていた。出発ロビーで手を振る純一の姿をいつまでも見ていた。飛行機が飛び立っていったとき、麻子は涙ぐんでしまった。由佳はそっと傍によって、肩を抱き寄せた。
「おば様・・・泣かないで。きっと元気にしているから、夏休みには会えるし」
「由佳さん・・・ありがとう、そうね。泣いちゃおかしいわね。あなたも私以上に寂しいのに」
帰り道、三人は旅行代理店へ向かい、夏のロンドン行きを予約しようと思った。直樹は仕事があるから、麻子と由佳の二人で行こうと考えていたが、杏子と佐伯が新婚旅行をしていなかったので、一緒にどうかと声をかけてみた。
「もしもし、ああ、姉さん。純一が今飛び立って行ったよ。うん、ロンドンにね。それでね、今旅行会社に来ているんだけど、姉さん達も新婚旅行兼ねて夏に麻子たちと一緒に行かないかなあと思って電話したんだけど」
「直樹、そう、ありがとう!いいわね・・・純一とも会えるし。麻子さんと由佳さんが行くのね・・・佐伯は多分OKするよ。母には留守番頼んでおけるし。予約入れておいて」
お盆休み過ぎの便で一週間ロンドンとパリの旅行を4人で申し込んで店を後にした。由佳と麻子はいつも手を繋いで歩いていた。直樹にはもう本当の親子のように感じられていた。
麻子に自分との子供が出来なかった分、由佳に気持ちが入っているのだろう。そして、由佳も話が合うのだろう、友達同士のような会話もしている。
家に帰った由佳は母親の潤子に、旅行の日程を話した。由佳の嬉しそうな顔を見ていることが、今の潤子には最大の幸せでもあった。
作品名:「哀の川」 第三十七話(最終回) 作家名:てっしゅう