ひと☆こと~ラヴストーリィ
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一眼レフのカメラを買った。
中古だけど、フィルムを使うタイプのカメラだ。
僕にとっては、大きな出費の買い物だ。
「へえ」
報告した時のキミの反応はこのふた文字だった。
心の中を話せば、キミの笑顔撮りたかったんだ。
景色が取りたいわけではない。
だけど、正直に話したなら、きっとキミは僕の為に笑顔を作ってくれるだろう。
少し斜め、小首をちょうど良く傾げ、笑みの零れる手前の愛くるしい顔を……。
ファインダーを覗く。キミは後ろや周りを見渡す。
「ねえ、この景色が良くない?このアングルでどう?」
「そうだね」
支えるように固定して絞り、キミにピントを合わせる。
(まだだ…まだ……)
待ちくだびれたのか、キミの頬からチカラが抜けた。
「ねえ」
突然かけた声にキミの表情が戻るその一瞬。本当のキミの笑顔が見えた。
ka-sya!(この音だけは文字に出来ないほど素敵な音だ)
「えー撮れたの?もうーすぐに見られないもん、これ」
だから僕は好きなんだ。
代わりの無い一瞬を収めたネガの中のキミが。
作品名:ひと☆こと~ラヴストーリィ 作家名:甜茶