ひと☆こと~ラヴストーリィ
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今日廊下であの人とすれ違った。
通り過ぎてから香りが私の鼻先を包んだ。
柑橘系のようだが甘いその香りを私の記憶に刷り込んだ。
あの人が見えなくなってそのまま後ろ歩きで香りを辿る。
(この香りは、私だけのもの…全部嗅ぎ取っておこう!)
家に帰って暫くすると、父親が帰って来た。
私も年頃、親父の臭いは嘘でも毛嫌いしたい。
「おかえりー」
ぶっきら棒に声を掛け、すれ違ったおやじからあの人の香り?
「ねえ、お母さん……」
聞いて崩れそうな気持ちをやっと建て直し部屋へと戻った。
母が言う。
「ああ、柔軟剤変えたのよ」
作品名:ひと☆こと~ラヴストーリィ 作家名:甜茶