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関西夫夫  誕生日

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 真面目な声で注意されると、俺もちゃんと謝る。そろそろ季節的に風邪のシーズンやから、俺の亭主は心配する。栄養失調生活が長かった俺は、どうも基本的な免疫とか抵抗力が弱いらしく、よく風邪を貰ってくる。ちらりと、カレンダーを見て、うげっと内心で叫んだ。あんなに、いろいろと考えてたのに、もう明後日が亭主の誕生日やった。

・・・・あかんがな、俺。もう選びに行ってる日があらへんやんけ。・・・・

 なんかあらへんか、と、考えていたら、日が過ぎてた。今年こそは、と、考えてても、これや。こらあかん、と、翌日、俺は必死に仕事をして定時で上がって百貨店に行くことにした。最終の〆の仕事を東川さんに変ってもらった。この分は、クリスマスあたりの休みと振り替えるから、一日くらいは、どうとでもなる。せっせと売り場を歩き回ったものの、亭主が喜びそうなものが思い浮かばない。その日は諦めて帰宅した。さらに翌日も、東川さんに頼んで百貨店に繰り出した。今日が本命やから、ここで買わんわけにはいかへん。とりあえず、セーターとかワイシャツとか普段使いのものを、いくつか買った。でも、プリンほどのインパクトはないし、笑いのとれるもんでもない。

・・・もう、いっそ笑いでええか? それとケーキ買わなあかんな。・・・・

 関西人のプレゼントの基本は、笑いか実用品となる。実用品が、今ひとつの場合は、笑えるモンを用意しておくのが基本やから、北海道フェアの売り場で、でかい花咲ガニを買い、北海道の有名なチーズスフレをホールで買った。それで、百貨店はお仕舞いの時間となって蛍の光が流れている。もう、そんな時間か、と、タクシーに乗って家に帰った。よう考えたら、その前にセーターとかワイシャツなんか買ったから、えらい荷物になってて、とても歩いて帰れるもんやなかった。


 ハイツの前でタクシーを降りて、階段を昇った。家の鍵は開いてたが、両手が塞がってるんで、ピンポンを顎で押す。ドタバタの足音が内から聞こえて、ガチャリと扉が開いた。
「はい・・・えええええっっ、何しとんねんっっ? 水都っっ。」
「ただいま、花月。とりあえず、持って。」
 荷物一杯の俺に驚いた俺の亭主は、慌てて荷物を持ってくれた。ようやく、両手が自由になったので、玄関に座り込む。
「スーツと靴買おてきたんか? それやったら連絡してくれたら、迎えに行ったんのに。」
 居間へ荷物を置いた俺の亭主が戻ってきて、俺を、どっこいせ、と、担ぎ上げる。
「・・ちゃう、おまえの。」
「はあ? 」
「今日、おまえ、誕生日やん。ほんで。・・・・あかんわ、全然思い浮かばへんかってん。」
「・・・・珍しい。覚えとったんや。」
「いつも忘れるから手帳と会社のカレンダーに丸つけてん。」
 短い廊下を運ばれて食卓の椅子に座らされた。居間のほうは、荷物で溢れているので俺の置き場がなかったらしい。
「て、買いすぎやろ? 」
「ええやん。数で勝負にしといたって。」
 はあ疲れた、と、俺はネクタイを緩めて、目の前の亭主の額にキスをする。亭主のように、きっちり準備はできへんけど、いろいろと考えて買ったから、これでよしとする。
「おめでとさん、花月。」
「おおきに、水都。」
「いろいろあるから適当に使こて。ほんで、ケーキとか生ものもあるさかい、見て。」
「はいはい、とりあえず、おまえの着替えさせてからな。」
 スーツの上下を脱がされて、ワイシャツも剥ぎ取られた。すっぽりとスウェットの上下を着せてもらうと、俺の亭主は荷物の解体に取り掛かる。
「ぬわんじゃっっ、こらぁぁぁっっ。」
「カニ。」
「なんちゅー値段のもん買おてくるねんっっ、おまえっっ。」
「ぬくいやん。」
「こんなデカイケーキ、誰が食うねん? 」
「俺一割、おまえ九割。」
「この靴下めっちゃぬくそーやな?」
「おまえの職場、暖房ケチっとるから、あったかい格好せんと死ぬ。」
 一個ずつ包装を剥がして、俺の亭主は笑っている。ああ、ええ笑顔やわ、と、俺も笑う。笑いモンは案の定、ツッコミしてくれるし、普段使いの服とか小物も喜んでくれた。

・・・・これは、なかなかええことなんちゃうやろか? 俺、これまで、この顔見られへんかってんな。えらい損しとったわ。・・・・


 いっつも忘れて、一緒にちょっと高いメシ食ったりで、ちゃらにしてもらってた。その時も、おおきに、と、俺の亭主は笑っていたが、それとは違う笑顔だ。意外やったから喜びも大きいもんになるのかもしれへん。
 全部開け終わった俺の亭主は、俺の椅子の前で膝をついた。そして、俺と視線を合わせる。
「おおきに、水都。」
「何年か分、これでチャラにしたってな? すまんな、花月。俺、いつも忘れて。」
「ええねん。俺は、勝手にやってるだけや。普通は、贈り物なんか大層にするもんでもないしな。俺、おまえにメシしたるぐらいやんけ。」
「・・でも、俺は嬉しいで? プレゼントかって貰ってるし。」
「こんなにしてへんで? 」
「俺のは何年か分纏めてやさいな。」
「土曜日、おまえのスーツと靴は一緒に行こう。俺が買うわ。ほんでチャラにしよう。」
「・・・うん・・・腹減ったわ。」
「ほな、用意する。」
 居間の机の上には、服と小物が乗っかっている。生ものだけ冷蔵庫に引き上げて、のんびり二人で食事した。さすがに、カニは、それから剥くのが大変やから、明日になった。食卓は、いつも通りの食事が並んでいる。ひじきの煮物とか秋刀魚の焼いたのとかいうメニューだ。
「すき焼きでもしたらええのに。」
「はいはい、週末にな。」
「俺の時は、豪華にするやん。」
「そら、可愛い俺の嫁の誕生日やからな。自分の時に、そんなん思いつかへん。」
「カニ食え。ひとりで食え。」
「無茶いいなや。あれ、でかいで。」
「鯛のほうがよかったか? 」
「いいや、おまえが買ってきたのが嬉しいから、あれでええよ。」
「他にはないか? 」
「もうええよ。なんぼ買うつもりや? 」
「花月が喜ぶんやったら、なんぼでもええ。」
「どあほ、貯金しとけっっ。老後の蓄えになる。」
 バカバカしい話をしつつ、食事して、ケーキを食べた。チーズスフレは、あんま甘くなかったので、三割ほど俺も食った。誕生日の楽しみというのも、花月が教えてくれたものだったが、贈る側の楽しさも、ようやく解った。確かに、これは楽しい。来年からは忘れずに用意しようと、俺も固く誓ったが、忘れっぽい俺ができるかどうかは微妙だ。



 翌日、俺は家に帰ってから熱を出してダウンした。やっぱり風邪をどこかで貰ったらしい。デカイカニはほぐされて、俺のおじやに投入されていた。せっかくやのに、と、俺は文句を言ったが、俺の亭主は笑っているだけだ。
「・・・・ええやん、これ、栄養あるし。俺も食うさかい。とりあえず、メシ食って寝たら治る。何回も百貨店へ行ったら、おまえの場合、こうなるわな。」
「すまんな。熱引いたら、先週のヤツ、サービスさしてもらうわ。」
「ああ、あれな。くくくくく・・・よかったか? あれ。」
「ん? よかったけど背中が引き攣るんで、何回もはしんどい。」
「なるほど。新しい技を、それまでに考えとく。」
「無茶ぶりはやめてや。」
作品名:関西夫夫  誕生日 作家名:篠義