関西夫夫 誕生日
誕生日なんてもんは、あってもなくてもええと思てた。旦那と出会うまでは。俺の亭主は、大変律儀な性格で、たぶん、ヤツは親や友人たちと、誕生日のやりとりをしていたからなのだろう。俺の誕生日にも、何かしらの贈り物をしてくれる。で、俺は、というと、うっかり忘れる。そして、後から慌てふためいて、何か探して贈るのだが、いつも、その場しのぎになりがちやった。それでも、俺の亭主は大喜びしているが、俺としてはケーキやら何やら準備して万全の態勢で祝ってくれる亭主に申し訳が無い。たまには、俺かてやってやらな、あかんやろう、と、考えていたら、あっという間に亭主の誕生日が迫ってきた。こら、あかん、と、俺は行動することにした。
「なんかいらんか? 」
「今なあ、百貨店で北海道フェアやってんねん。限定百のプリン食いたいねんけど、夕方にはなくなってるんよ。それ、欲しい。」
「さよか。」
「なんよ? 臨時収入でも入ったんか? 」
「まあ、そんなとこや。せやから、もうちょっと高いもんでもええで。」
「高いもんけ? うーん、そろそろテレビの買い替えせなあかんねんけど、それの予算が十万くらいのつもりや。それは? 」
「わかった。他には? 」
「え? まだいけんのか? ・・・・おまえ、また、いかがわしいバイトしたんとちゃうんやろうな? 」
「してへんっっ。」
以前、俺が女装クラブの広告に出るのに、白無垢やらウェディングトレスを着たことがある。それは一日で三十万の高額バイトやったので、俺の亭主は、それを疑ったらしい。そうそう、そんな割のええバイトがあると思うほうがおかしい。
「他にけ? うーん、おまえの電気毛布が毛羽立ってきたから、あれ、新しいのにするか? 」
「俺のやのおて、おまえのもんで。」
「俺? 別に、これというてあらへんなあ。」
「スーツ一式とかは? 」
「いかがわしいバイトで、おまえが買おてくれたやんけ。」
「それ、だいぶ前やで? 」
「でも、ええもんは草臥れへんから、まだ、ええ感じや。」
だらだらと居間で寝転びながら、ふたりして会話している。休日の昼間なんてもんは、いつもこんな感じで過ぎていく。これといって用事もないから外出もない。そろそろ、こたつのまわりをせんなあかんなあーと、俺の亭主は呟いている。とはいっても、まだ、そこまでの寒さではないので、即行動ということでもない。
「・・・テレビとプリンって・・・・」
「そんなもんやな。せやせや、今から北海道展行ってみよか? プリンあるかもしれへん。」
「ないわ。休みなんか限定もんが残ってるわけあらへん。」
「ほんで人ごみやしな。おまえ、確実に酸欠なるわな? 」
「せやろな。」
俺の亭主は、あまり欲のない男やし見栄っ張りでもない。ブランド品の財布が欲しいとか靴が欲しいとかいうのもない。せやから、適当なもんでええと言う。それは俺も同じで、わざわざ、そんなもんを買うのが面倒やったりする。
「臨時収入があってんやったら、おまえのスーツを買え。一着、もうあかんぞ。」
「・・うん・・・」
「あと、靴も中底が擦り切れてきたある。」
「そうなん? ええやん、誰も見えへん。」
「どあほ、座敷で飲み会の時に、丸見えじゃっっ。あかんわ、あれ、買お。ついでに晩飯は、外食。」
「いやや、昼寝させてくれ。俺、背中痛い。」
「さよか。せやけど、仕事帰りにでも買ってきぃーや? さすがに、あれはあかんで? 」
「・・うん・・・」
・・・・おまえのもんを買いに行きたいんじゃっっ。俺のとちゃうわっっ、ぼけっっ・・・・・
内心でツッコミして想像で、俺の亭主のド頭を三発ほどハリセンでどついて、俺は目を閉じる。休日の午後なんてもんは、昼寝すんのが定番で、昨夜の疲れなんてもんを解消せなあかん。なんせ、俺の亭主は、週末になると俺を食うからだ。それはもう、ご丁寧に隅から隅まで食うので、俺はへろへろになっている。昨夜は、上に載せられて揺すられたので、背中が痛い。後ろ手で俺の腕を掴んで、俺の亭主が突き上げるもんやから、俺は背中を伸ばしていたかららしい。騎乗位で、延々やられると、背中に負担があるのが、よくわかった。
「毛布と枕。」
居間で転がっていると、俺の亭主は寝室から、それを運んできて、俺に被せてたり頭を乗せてくれたりする。とろとろと、その温かさで俺は溶ける。今夜は普通にいたして欲しい、と、お願いだけはしてみるつもりや。
うちの職場は食事休憩も、各人の時間の都合で入れるから、ちょいと外出なんてのも簡単にできる。その代わり、抜けた時間の分は残業することになる。百貨店まで電車で三駅やから、さくっと行って限定百のプリンを確保してきた。それを手土産に家に帰ったら、俺の亭主は目を丸くした。
「どないしたん? これ。」
「昼休みに買おてきた。これやろ? 」
「おうっっ、おおきに、おおきに。愛しの俺の嫁っっ。」
小躍りせんばかりに喜んで、早速、箱を開けている。中にはプリンが五個入っている。
「なんで五個? 」
「そんなちっこいもん、五個くらい食わな、味わからへんと思て。」
「えへへへ・・・おまえも食うか? 」
「いらん。メシ。」
残業していたのもあるが、基本的に俺の亭主のほうが帰りは早い。だから、食事は亭主が作ってくれる。今日は、親子丼やった。ちゃんと猫舌用に冷ましてあるから、スプーンでがっつり食っても火傷することはない。ほうれん草の白和えとタマネギのおつゆがついていて、それも熱くはない。おつゆなんか、ごくごくと飲める温度やから、空腹の俺には有り難い。食卓の対面で、俺の亭主はご機嫌な顔で、プリンを食っている。
「あー、想像してた通りやっっ。口の中でとけはるわ。」
「そらよろしおすな。」
俺は、甘いもんは食わへんので、それを眺めているだけだが、とても嬉しい気持ちになった。ちょっとしたことで、亭主が嬉しそうに、それを食べている顔は、何よりも疲れがとれる。昼飯の時間を潰して買いに行った甲斐があるというものや。
「ほか、なんかあるんやったら昼間に買おてくるで? 」
「いや、もうええ。・・・それより、おまえ、昼飯は食うたか? 」
「え? 」
「これ、買いに行ったの昼やろ? メシは? 」
まずいっっと、俺は頬を引き攣らせた。実はメシは食うてない。昼飯時間を、そっちに使ったから缶コーヒーを三本ほど飲んで誤魔化した。一回ぐらい昼飯抜いたぐらいは、どうということもないのが、俺という人間である。だが、俺の亭主は、大変きっちりとした食生活を信条として掲げる人間で、抜かしたなんぞと言おうものなら、説教とかエグイお仕置きなんぞしやがる。
「食った。」
「ほおう、何食うた? 」
「パン。」
「パン? どんな? 」
「パッパンはパンや。適当に選んだから忘れた。」
「・・・・水都・・・」
「・・・はい・・・」
「もう、こんなんせんでええ。ちゃんと昼飯食うてくれ。」
「たまのことや。それに、おまえが食いたいって言うたからや。」
「うん、おおきに。でも、昼抜くのはあかん。ええな? 」
「・・・はい・・・」
「なんかいらんか? 」
「今なあ、百貨店で北海道フェアやってんねん。限定百のプリン食いたいねんけど、夕方にはなくなってるんよ。それ、欲しい。」
「さよか。」
「なんよ? 臨時収入でも入ったんか? 」
「まあ、そんなとこや。せやから、もうちょっと高いもんでもええで。」
「高いもんけ? うーん、そろそろテレビの買い替えせなあかんねんけど、それの予算が十万くらいのつもりや。それは? 」
「わかった。他には? 」
「え? まだいけんのか? ・・・・おまえ、また、いかがわしいバイトしたんとちゃうんやろうな? 」
「してへんっっ。」
以前、俺が女装クラブの広告に出るのに、白無垢やらウェディングトレスを着たことがある。それは一日で三十万の高額バイトやったので、俺の亭主は、それを疑ったらしい。そうそう、そんな割のええバイトがあると思うほうがおかしい。
「他にけ? うーん、おまえの電気毛布が毛羽立ってきたから、あれ、新しいのにするか? 」
「俺のやのおて、おまえのもんで。」
「俺? 別に、これというてあらへんなあ。」
「スーツ一式とかは? 」
「いかがわしいバイトで、おまえが買おてくれたやんけ。」
「それ、だいぶ前やで? 」
「でも、ええもんは草臥れへんから、まだ、ええ感じや。」
だらだらと居間で寝転びながら、ふたりして会話している。休日の昼間なんてもんは、いつもこんな感じで過ぎていく。これといって用事もないから外出もない。そろそろ、こたつのまわりをせんなあかんなあーと、俺の亭主は呟いている。とはいっても、まだ、そこまでの寒さではないので、即行動ということでもない。
「・・・テレビとプリンって・・・・」
「そんなもんやな。せやせや、今から北海道展行ってみよか? プリンあるかもしれへん。」
「ないわ。休みなんか限定もんが残ってるわけあらへん。」
「ほんで人ごみやしな。おまえ、確実に酸欠なるわな? 」
「せやろな。」
俺の亭主は、あまり欲のない男やし見栄っ張りでもない。ブランド品の財布が欲しいとか靴が欲しいとかいうのもない。せやから、適当なもんでええと言う。それは俺も同じで、わざわざ、そんなもんを買うのが面倒やったりする。
「臨時収入があってんやったら、おまえのスーツを買え。一着、もうあかんぞ。」
「・・うん・・・」
「あと、靴も中底が擦り切れてきたある。」
「そうなん? ええやん、誰も見えへん。」
「どあほ、座敷で飲み会の時に、丸見えじゃっっ。あかんわ、あれ、買お。ついでに晩飯は、外食。」
「いやや、昼寝させてくれ。俺、背中痛い。」
「さよか。せやけど、仕事帰りにでも買ってきぃーや? さすがに、あれはあかんで? 」
「・・うん・・・」
・・・・おまえのもんを買いに行きたいんじゃっっ。俺のとちゃうわっっ、ぼけっっ・・・・・
内心でツッコミして想像で、俺の亭主のド頭を三発ほどハリセンでどついて、俺は目を閉じる。休日の午後なんてもんは、昼寝すんのが定番で、昨夜の疲れなんてもんを解消せなあかん。なんせ、俺の亭主は、週末になると俺を食うからだ。それはもう、ご丁寧に隅から隅まで食うので、俺はへろへろになっている。昨夜は、上に載せられて揺すられたので、背中が痛い。後ろ手で俺の腕を掴んで、俺の亭主が突き上げるもんやから、俺は背中を伸ばしていたかららしい。騎乗位で、延々やられると、背中に負担があるのが、よくわかった。
「毛布と枕。」
居間で転がっていると、俺の亭主は寝室から、それを運んできて、俺に被せてたり頭を乗せてくれたりする。とろとろと、その温かさで俺は溶ける。今夜は普通にいたして欲しい、と、お願いだけはしてみるつもりや。
うちの職場は食事休憩も、各人の時間の都合で入れるから、ちょいと外出なんてのも簡単にできる。その代わり、抜けた時間の分は残業することになる。百貨店まで電車で三駅やから、さくっと行って限定百のプリンを確保してきた。それを手土産に家に帰ったら、俺の亭主は目を丸くした。
「どないしたん? これ。」
「昼休みに買おてきた。これやろ? 」
「おうっっ、おおきに、おおきに。愛しの俺の嫁っっ。」
小躍りせんばかりに喜んで、早速、箱を開けている。中にはプリンが五個入っている。
「なんで五個? 」
「そんなちっこいもん、五個くらい食わな、味わからへんと思て。」
「えへへへ・・・おまえも食うか? 」
「いらん。メシ。」
残業していたのもあるが、基本的に俺の亭主のほうが帰りは早い。だから、食事は亭主が作ってくれる。今日は、親子丼やった。ちゃんと猫舌用に冷ましてあるから、スプーンでがっつり食っても火傷することはない。ほうれん草の白和えとタマネギのおつゆがついていて、それも熱くはない。おつゆなんか、ごくごくと飲める温度やから、空腹の俺には有り難い。食卓の対面で、俺の亭主はご機嫌な顔で、プリンを食っている。
「あー、想像してた通りやっっ。口の中でとけはるわ。」
「そらよろしおすな。」
俺は、甘いもんは食わへんので、それを眺めているだけだが、とても嬉しい気持ちになった。ちょっとしたことで、亭主が嬉しそうに、それを食べている顔は、何よりも疲れがとれる。昼飯の時間を潰して買いに行った甲斐があるというものや。
「ほか、なんかあるんやったら昼間に買おてくるで? 」
「いや、もうええ。・・・それより、おまえ、昼飯は食うたか? 」
「え? 」
「これ、買いに行ったの昼やろ? メシは? 」
まずいっっと、俺は頬を引き攣らせた。実はメシは食うてない。昼飯時間を、そっちに使ったから缶コーヒーを三本ほど飲んで誤魔化した。一回ぐらい昼飯抜いたぐらいは、どうということもないのが、俺という人間である。だが、俺の亭主は、大変きっちりとした食生活を信条として掲げる人間で、抜かしたなんぞと言おうものなら、説教とかエグイお仕置きなんぞしやがる。
「食った。」
「ほおう、何食うた? 」
「パン。」
「パン? どんな? 」
「パッパンはパンや。適当に選んだから忘れた。」
「・・・・水都・・・」
「・・・はい・・・」
「もう、こんなんせんでええ。ちゃんと昼飯食うてくれ。」
「たまのことや。それに、おまえが食いたいって言うたからや。」
「うん、おおきに。でも、昼抜くのはあかん。ええな? 」
「・・・はい・・・」