【無幻真天楼 第十三回】ふわふわり
「何かきたしオイ…;」
悠助を抱き抱え壁に背をつけた京助が【何か】を引きつった顔で見る
鎧のような摩化不思議服を着たオレンジ色の髪の女性
「どちら様…?; あのーできれば靴は脱いでほしいんですけどもー」
京助が話し掛けてもその女性は返事をしなかった
「てか言葉わかるか? 俺の話してる日本語、わからねぇ言われても困るからわかっとけよ? で…まずはだから靴…」
相変わらず京助の話には返事はせず代わりに赤い唇の両端が持ち上がり弧を描く
「…っ;」
全身を走り抜けた悪寒に京助が身を竦めた
背中は壁だとわかっているのにまだ後ろへ逃げたい感覚
自然と悠助を抱く手に力が入った
『ヤバい』
弧を描く赤い唇はそのままで女性の踵が床から離れた
『ヤバいって』
頭の中ではもうとっくに駆け出しているのに現実はただその赤い唇から目を離せず動けずにまだ寝息をたてている悠助を抱いたままで何もできず背中に感じる逃げ道無しの現実
心臓が痛いくらい早くなっている
指先もあんまり感覚がない
声もでない
体が動かない
作品名:【無幻真天楼 第十三回】ふわふわり 作家名:島原あゆむ