【無幻真天楼 第十三回】ふわふわり
縛られた手首からは赤い血
体についているのは自分の血なのかそれとも…
どこかでかいだことのあるにおいがして阿修羅のまぶたがピクンと微かに動いた
シャラっという音がして阿修羅の眼が開く
「…わらわの言葉が通じなかった…のか…」
まず見えたのが赤い唇
その唇がきゅっとつむがさる
「阿修羅」
名前を呼ばれて思い出す
「竜は…これでも手加減したとそしてすまないと」
そしてすまなそうに言った言葉で鮮明に蘇った記憶
「みんなは!?」
声を上げると口の端に痛みが走った
そして広がる血の味
「…落ち着きなさい」
そっと口にあてがわれた柔らかな布
それが優しく動き口の周りの血を拭い取っていく
「…死んだのか」
ぴたっと手が止まった
「殺したのか」
布を持つ手に力が入った
「お前らが…」
ハッと笑いとも取れる息とともに言う阿修羅の目線の先には眉を下げた吉祥の顔
「わらわは忠告した…何故きかなかった…そうすれば貴様だって仲間だって…」
「宮に何がわかるんきに…オライ達のこと」
「吉祥」
足音がして男の声がした
「…竜…貴様これで手加減したというんですか」
「いや…; 吉祥お気に入りってことでしたつもりなんだが…意外に強くてなこいつは」
「なっ…; 誰がおきに…ッ」
からかうように言った竜に吉祥が口ごもる
「…でもな吉祥…お前は…」
「おい…」
竜の言葉を阿修羅が止めた
「話が見えない上に…助ける気があるんならまずはどうにかしてくれんかの」
さかさまのまま吊るされていた阿修羅が言った
「俺は竜…ここにおられます吉祥様のお目付け役兼教育係だ」
「竜…貴様叩かれたいんですか」
半ばふざけて自己紹介をした竜に吉祥が鋭い視線を向けた
「お前のいう…宮の人間だ」
阿修羅を地面に降ろした竜が眉を下げて申し訳なさそうに言うと吉祥がしゃがみ阿修羅の頬を撫でた
作品名:【無幻真天楼 第十三回】ふわふわり 作家名:島原あゆむ