~双晶麗月~ 【その3】
ミシェルは一息つき、静かに答えた。
「あの時……フィルが私に飛び掛ってくることもわかっていました。正直なところ僕がそう仕向けたと言われれば否定できません。もちろんあのフィルはあなたがこの世に生まれてからずっとそばにいたわけですから、あなたもきっとフィルからなんらかの悪い影響を受けているであろうと……僕は思っていました。
フィルから間接的に……狼一族の支配欲・憎悪・残虐性…あらゆる負の思念の影響をあなたは受けているであろうと踏んでいたんです」
「だからフィルをあんな残酷な殺し方して私に見せ付けたのか!」
私は怒りが込み上げてきた。
「ですがあの時……」
「『あの時』がなんだってんだよ!」
「あの時……僕が見たあなたは涙を流し……ちっとも穢(けが)れてなどいなかった……」
「それ……どういう意味だよ……私がずっとフィルを信じていたからか!」
私はバカにされているように感じ、さらに怒りが込み上げる。
だが、目の前にいたミシェルは、一瞬悲しそうな顔をした。
「あなたは……フィルがいることによって、つねにフェンリル一族に狙われる状態でした。それは事実です。もちろんそれらからあなたを護るために、僕はずっとあなたの近くにいました。そしてできることなら、あなたの目には触れず[事]を済ます予定でした。
ですがその時期が近付くにつれ、あなたの危険が増してきて……僕はあの時あなたの前に姿を見せてしまった……そして僕はあの時フィルをあんな消し方して……今でも僕はあの時のあなたの涙を忘れられない……残酷なやり方をしてしまった………本当に……後悔しているんです」
【生まれる前からずっと……私はフィルに騙されてた……ずっと私を護ってくれてたフィル……私の守護をしてくれていたと思っていたのは、私の勘違いだった……】
どれを信じて、どれが真実なのかわからなくなっていた私は、目の前のミシェルでさえ疑う対象となった。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈