~双晶麗月~ 【その3】
ミシェルは抱きしめていた腕をゆっくり離し、私の目を見た。
「ラグナロク……世界終末の日と呼ばれる日から、今もなお繰り返されるナーストレンドでの狼一族とニズホッグの争いは、ニズホッグが『嘲笑(ちょうしょう)する虐殺者』と呼ばれたことにあります。でも、本当の虐殺者は狼一族の長、フェンリル一族だと僕は思っています。
フェンリル一族は自らの力を見せ付けるためだけに、まだ魂の残る死者を喰らい、色々な術を使い僕らアース神族を陥れようとしています。そして全ての世界を支配しようとしている。それは……アースガルズの創世者オーディーンのいる頃からでした」
「オーディーン……?」
「本にも載っていましたね。そうです。オーディーンはラグナロクでフェンリルに殺されました。他の者たちも……大勢いました……それを運ぶニズホッグ………どんな気持ちで運んだことか……」
「フィルは……その[狼一族]なのか……?私をずっと騙していたのか……?」
「フィルは……[探知機]だったんです」
「探知機?」
「はい。フェンリル一族からあなたの位置がすぐわかるよう、あなたのそばに常にフィルを置いておいたんです。フィルは……あなたを護っていたんじゃない。いつもあなたを見張り、今あなたがどこにいるのかを一族に伝えていたんです。犬は……耳がいいですからね」
私はミシェルが狼のような犬を連れて音楽事務所に入っていった話を思い出した。
やっぱり私にそれを知らせるため……?
でもあれはフィルが死んでから随分経っていた。
フィルが死んでから私がずっと色々考えていたことを、ミシェルは知っていたのか?
「でも確かにフィルは私を護ってくれてたよ!いつでもずっと!」
私はそう信じたかった。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈