~双晶麗月~ 【その3】
「どうしよう……まさか!彼女にフィルグスの封印を盗られた……?」
フィルグスの封印を奪われたことでどうなるのか、今の私にはわからない。だが[あの姿]が尋常でないことぐらいはわかる。なのに今の私にはどうすることもできない。
私はその冷たい岩の床に座り込んだ。
数時間、いや数日経ったかもしれない。私はお腹がすくこともなく、眠くなることもなかった。だが、僅かに光が入るだけのこの場所では、時間の経過が全くわからなかった。
『咲夜……まだ早いんですよ……今出てきたら……』
ふいに、ミシェルが言っていた言葉を思い出した。
「こういうことだったのか……」
私は今までにないくらい後悔していた。
今頃ミシェルはどうしているだろう……
雄吾は?父さん、母さん、兄貴……皆どうしてるのかな。
きっと心配してるだろう。
私はこのままここで誰にも気付かれず、死んでゆくんだろうか……
彼女もこうしてずっと、泣いていたんだろうか……?
考えていたら涙が次々と溢れ出てくる。
私はずっと静かに泣き続けた。
『女の涙は嫌いです』ミシェルはそう言ってたっけ……
その理由、今度会ったら聞いてみようかな。
いつ会えるかも、本当にまた会えるのかもわからないけれど……
そう思いながら泣いていると、足元の岩に何か光るものがあるのに気付いた。
どうやらそれは自分の涙でできた水溜りのようだった。大きさは十センチほどだろうか。
「水中なのに、水溜り?」
不思議に思い、その光る水溜りを見てみた。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈