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野琴 海生奈
野琴 海生奈
novelistID. 233
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~双晶麗月~ 【その3】

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「ありがとう」
 岩の隙間から少しだが、そう言って微笑む彼女が見えた。長い栗色の髪がゆらゆらと揺れている。岩の壁を挟んで繋いだ彼女の手は、私の手と比べても明らかに白く細く、そして冷たかった。

「あなたの名前は?」
 私がそう言った直後、岩の隙間から私の右肩辺りを見て、くすくすと笑う。
「それ、私にもあるのよ」
 彼女は白い翼と化した左腕の付け根の、私と同じ痣を見せてくれた。
「なんでそれを……!?」

 その問いの返事を聞く前に、繋いだ手からたくさんの水が吹き出してきた。その勢いで私は吹き飛ばされそうになる。彼女は私の手を力強く握った。細い腕を持つ彼女のものとは思えないほどの力で。

「ワタシの名前は[サクヤ]」
 繋いだ私たちの手から噴き出す水の音が、その声を掻き消そうとしていた。
 だが、私は聞き逃さなかった。

「私と同じ名前?……うそだろ……?」

 私が戸惑っていると、彼女は続けて言った。
「ふふふ……[あなたはワタシ。ワタシはあなた]……ということよ」

 その直後、吹き出ていた水はさらに勢いを増し、渦を巻いた。
 激しく渦を巻く水の音の中から聞こえてきたのは、高らかに笑うような、そんな彼女の歌声だった。
 すでにその時、私の手元には彼女の白い手はない。

「どういうことなんだよ!」