~双晶麗月~ 【その3】
「アナタ……ワタシを出してくれるの……?」
「うん!出よう!こんなとこにいちゃダメだ!」
私はそう言って力いっぱい岩を押した。山積みになった大きな岩はピクリとも動かない。だが、私は彼女をどうしても出してあげたいと思った。
「ふふふ……そんなことしても出られないわ」
「え!?じゃ、どうやって……」
「手を出してみて?」
「手を?でも結界が……」
「そんな簡単な結界、壊せるわよ」
そう言って彼女は私の方に手のひらを伸ばす。私も言われるがまま彼女に手を伸ばす。
私たちは結界の膜を挟んで、そっと手を合わせた。
すると私の周りに張られていた結界が、激しく火花を散らした。
「あっ!ヤバイって……!」
「離さないで!」
そう言った彼女の手のひらからは、血が滴り落ちていた。
「やめろ……!何してんだ!」
私はすぐに手をひいた。
「大丈夫よ」
彼女がそう言うと、徐々に火花が収まっていった。
「ほら。手を出してみて」
恐る恐る手を伸ばすと、張られていた結界は消えていた。驚いていた私を岩の隙間から見た彼女は、くすくすと笑いながら血の垂れた手のひらを赤い舌で舐めた。
なに……?この子……
私は鳥肌が立った。
「さぁ、手を伸ばして」
そう言いながら伸ばした彼女の手のひらは、垂れていた血も消え、傷一つ残されていなかった。
『咲夜……まだ早いんですよ……今出てきたら……』
ミシェルの言葉が木霊する。
私は……この手を取っていいのだろうか……
しばらく躊躇(ちゅうちょ)していると、また悲しい歌声が聞こえてきた。まるで催促をするかのように歌うその声で、私はまた胸が痛んだ。本当に悲しくて苦しくて……
「ワタシをここから出して…」
歌をやめ、そう言った彼女の言葉は、何かの呪文のように聞こえた。
気付けば私は右腕を伸ばし、彼女の手を取っていた。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈