~双晶麗月~ 【その3】
私は結界に触れた指先を押さえ、しばらく考えていた。
するとまた悲しい歌声が海の底に響き渡った。私は悲しみで胸が痛んだ。
「あなたがずっと私を呼んでいたんだね?あなたは……何をそんなに悲しく歌うの……?」
私の問いに返事もないまま、歌声は続く。
「私は胸が痛いよ……これは……あなたの悲しみ?苦しくて苦しくて……」
私は泣きそうな自分を必死で抑えた。
「どうか私に話して。私では……なんの解決にもならないかもしれないけど……」
そう言いかけると、歌声はピタリと止まった。
そして彼女は話し始める。
「ワタシはずっとここにいるの……この暗くて冷たい海の底で……」
「どうしてここにいるの?どうして鎖に繋がれて、こんな風に積まれた岩の中にいるの?」
「さぁ……どうしてかしらね……」
彼女は岩の隙間から白い腕を伸ばすのをやめた。
「これ……何か知ってる?」
そう言ってその岩の隙間から彼女が出したのは、白い羽根で覆われた翼の先だった。
「……なんで!?」
その翼は彼女の左肩から伸びているようだった。そう、それは以前ミシェルが私の右腕に触れた時と同じ………
「出よう!こんなとこにいないで!」
私は思わずそう言っていた。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈