~双晶麗月~ 【その3】
◆第9章 白の脅威◆
───静かな海の底で、その歌は聞こえた。それはとても澄んでいるが、私の中の感情を増幅させるような、そんな歌声だった。
私は再びあの積まれた岩の元へと進む。近付けば近付くほど、悲しさが私を責めるようで、胸が苦しかった。
私が岩の前まで来ると、その声は歌うのをやめた。そして僅かなその隙間から、白い腕を静かに伸ばす。その腕を囲う白い袖口は、花が咲いたように広がり、ゆらゆらと揺れていた。
『咲夜……まだ早いんですよ……今出てきたら……』
ミシェルの言葉が頭を掠める。
私は躊躇(ちゅうちょ)した。
「助けて……」
中から聞こえるその声に、私はどうしたらいいか迷っていた。
「この手を取って……ワタシを出して……」
伸ばされた白い腕には頑丈に鉄の輪が付けられ、そこに繋がる鎖は下へと垂れ下がる。
「この鎖はどうすれば……?」
私はそっと鎖に手を伸ばした。
だがその瞬間。
「……痛っ!」
急に指先に電気が走り、私は伸ばした手を引っ込めた。見ると、私の周りに張られたままだった結界が、火花を散らしていた。
「ダメだ……結界が……」
あのメモには結界の張り方だけが書いてあった。
だが、結界を解除するにはどうすればいいんだ…
知らないうちに張っていた結界……どうやって張ったのかもわからないのに……
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈