~双晶麗月~ 【その3】
その後、改めて部屋を見渡すと、妙なことに気付いた。
床を見ると、私がいる所から半径一メートルくらいの所まで、ガラスの破片が一つもない。砕かれた家具の破片も私の近くには何も落ちていない。そして私はケガ一つしていない。割れたガラスがあんなに飛んできていたのに……もしかしてこれが[結界]?
だがしばらくして、胸の鼓動が落ち着いてもいないのに、また別の異変を感じた。
右肩の痣の辺りからズキズキと痛みが走る。それと同時に物悲しい感情が胸の奥から沸いてくる。私はあの海底にいた彼女のことを思い出した。
これ…[フィルグスの封印]って言ってたっけ……彼女腕を見せて欲しがっていた……これがフェンリルに反応しているんじゃないなら、もしかしたら彼女からの信号かもしれない。
『咲夜……まだ早いんですよ…今出てきたら……』
『新月ではまだダメなんです……月が満ちるまで……次の満月まで待たなければ……』
ミシェルが言っていた。
まだ早いって?今出てきたら……満月まで待たなければどうなるって言うんだ……
私はこの悲しみに打ちひしがれた感情を押さえられず、自らの意識をあの海底へと向けてしまった。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈