~双晶麗月~ 【その3】
まだ朝なのに空は暗い。これは雨雲のせい。
大通りを通る車のライトが、もたれたガードレールの隙間から私の背中に当たる。傘をささない私は、隠れるようにガードレールの影に座る。そこから海に向けて、すぐに坂になっているので、私は坂の草が濡れているのもお構いなしに足を伸ばした。坂の草が冷たく私の足を濡らす。
坂を下りた所には砂丘があり、いつもより荒い波が押し寄せている。
この海の底には……もしかしてあの白い腕の彼女がいるのだろうか……
それともどこか別の海底……?
『助けて』と言った彼女の声が、今でも耳を澄ますと聞こえてくるような気がする。
彼女の悲しさと苦しさが私へと流れてくる。
私は雨の降る海を見つめ、静かに泣いていた。
これは彼女の感情なのか、それとも私自身の感情なのか……
胸が……苦しいよ……
気が付けば雨はやみ、薄日が射していた。時間はもう昼を過ぎてるだろうか……
海に映る微かな光は、私を穏やかな気持ちにさせてくれた。
私は今朝のメモを持ってきていたことに気付き、取り出した。
「結界の張り方……か……」
少し湿ってしまったそのメモを見ながら、決心を固めた。私はもう一度強くなると……
私はそのメモ通りに色々試してみた。でも何度やっても上手くできない。それでも自分でやれるだけのことをやろう、そう思っていた。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈