~双晶麗月~ 【その3】
「そんな……泣くなよ……そんなにお前が泣くと……オレまで泣けるじゃねぇかっ!」
雄吾は傘を放り投げ、私を強く抱きしめた。
その勢いで私の傘も大通りの側道に落ちる。
雄吾の顔を見上げると、オトコのくせにおいおいと泣いていた。
「バカッ!なんでオマエが泣くんだよ!」
強く抱きしめたままの雄吾の腕の隙間で、私は自分の涙を手で拭い、そう言った。
「だってよォ……お前、いつもクチ悪いくせによォ、こんな風に泣くなんてよォ……」
『女の涙は嫌いですからね』
私は、ミシェルの言っていた言葉を思い出していた。
「クチ悪いって、ひとこと余分だよっ!これは泣いてんじゃねぇの!笑ってんだよ!笑いすぎて泣いてんの!」
驚いた雄吾は、抱きしめた手を解き、私の顔をじっと見た。
「バカ言ってんじゃねぇよ。お前、笑ってなんかねぇじゃんか!」
「あっはっはっはっは!……ほら!笑ってるじゃんか!」
私は無理矢理笑って見せる。
「ハハッ……そんな笑いで泣けるかよ。これぐらいちゃんと笑わねぇと!」
そう言って雄吾は大きな笑い声を出した。
私は雄吾の気持ちが痛いほどわかった。
「雄吾……ごめん……。でも……ありがと」
私は雄吾に背を向けた。
「お前の気持ちはオレが一番よ?く知ってる。まだ半年程度の付き合いだけどよ」
「うん、わかってる……」
私はそう言って雄吾が放り投げた傘を拾い、雄吾に渡した。
降り続く雨はさらに強くなった。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈