~双晶麗月~ 【その3】
「なんで……なんかあったのか!」
「はァ?だから別に落ち込んでなんかいないって言ってるじゃん!」
そうだよ、別に……雨降ったくらいで落ち込むわけないし。
「だってよォ……お前……」
「『だって』がなんだよっ」
「だって…涙が……」
「……涙?」
そう言われて私は、降り注ぐ雨よりも多く落ちてくるものが涙だと、やっと気付いた。
「おいおいおい〜、何があったんだよ〜。兄貴となんかあったのか?」
雄吾は制服の袖でガシガシと私の顔を拭いた。
「痛いって!いいよ!ちゃんとハンカチ持ってきてるから!」
私は涙を隠すつもりで必要以上に下を向き、ポケットからハンカチを慌てて取り出した。その時私が取り出してしまったハンカチは、ミシェルと初めて会った時、ミシェルから渡されたあの白いハンカチだった。このハンカチにはミシェルの術がかけられている。
そのハンカチを出すと同時に、濡れた地面に茶色くなった花びらが落ちた。
そうだ……フィルの血の花びらをハンカチに包んだままだったんだ……
またいつもの癖で、ポケットに入れてたんだな。
あれからもう半年……もうこんなに茶色くなってしまった……
手元から全て落ちたその花びらには、さらに雨が降り注ぐ。
「なんだよこの花びら!これって……前に空き地で見た花びらと同じじゃねぇ?茶色くなってるじゃねぇか……なんでお前が……」
「違う!あの時のじゃないんだ」
「だってどう見ても……」
そう言った雄吾の声は雨音にかき消され、ほとんど私の耳には届かなかった。
いや、届いていたけど聞こうとしなかっただけなのかもしれない。
私の涙は、次々と溢れ出していた。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈