~双晶麗月~ 【その3】
「今日はどうしたんだよ、いつもより歩くの早いじゃん。なんかあったのか〜?いつもと同じ時間に出てきたはずなのに、咲夜が遠くに行っちまってるから、驚いたぜ」
「うん、今日紅茶飲んできただけだから早いんだよ」
「あ?食事当番の兄貴、いねぇのかよ」
私はハッとした。
昨日のことを、ミシェルのことや私のことを、雄吾に話すわけにはいかない。私でもやっと理解し始めたとこなのに、雄吾が理解できるわけがない。
「……うん、今日は朝早くから出かけたから」
「ふ〜ん、だからそんなにすげぇ落ち込んでんのか?」
「そんなことない別に!落ち込んでるわけじゃねぇよ!腹減っただけ!」
私はムキになって否定した。
雄吾に本当のことを話せば……雄吾を巻き込むことになるかもしれない……
「ハハッ!お前らしいなぁ。腹減ってんならこれやろか?」
そう言って雄吾はポケットから飴を一つ出してくれた。私は立ち止まって、持っていた傘を肩に乗せた。そして雄吾に貰った飴の封を切り、すぐに口に放り込んだ。
甘いイチゴミルク……私には甘すぎるなぁ……
私は立ち止まったまま、遠くを見ていた。
すると突然雄吾が声を高くした。
「お……おい!どうしたんだよ!」
「ん?なにが」
私は顔を上げ、隣にいた雄吾の顔を見た。なぜか滲んでよく見えない。
確かに空は暗いけど……こんなに雨降ってたっけ?
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈