~双晶麗月~ 【その3】
その後、少年が向かったナーストレンドでは、ニズホッグとフェンリル一族との死闘が繰り広げられていた。黒い雲が空を埋め尽くし、黒い土と岩ばかりの地面には、蠢(うごめ)く死者たち。その死者を喰らうたくさんの狼。
「結界を張る!その間にお前は死者を拾いに行け!」
少年がニズホッグに向かい叫ぶと、ニズホッグは強い風を巻き上げ、空へ向かう。
それと同時に少年は右手を高く伸ばし、宙に円を描き呪文を唱える。
「おのれ……また現れたか……!」
しゃがれた声を出すのはフェンリル一族のうちの1体。
黒く大きな体、赤い目はギラギラと光り、少年を鋭く睨む。
少年はフェンリルの顔を見上げて叫ぶ。
「ここは退(ひ)いてもらう!」
「邪魔ばかりしおって……」
「邪魔をしているのはお前たちだ!ニズホッグが死者を運ぶ命を受けていることを知っているであろう!?」
「その死者をを喰らうのが我らの定め。邪魔立てはさせぬ!」
「転生の余地のある魂を喰らうのは、お前たちの言う[真]か!」
「我らはその[真]を集める』
「お前たちの行いは、[嘲笑する虐殺者]そのものであるぞ!」
「そう、ニズホッグもその手伝いをしておるのだ。喜べ」
「それが争いを引き起こしているということがわからぬのか!」
「おのれの血、ニズホッグの血が虐殺意欲を湧かせるであろう?おのれも我らの仲間」
「僕はお前たちとは違う!そしてニズホッグもだ!」
少年は濃いブルーの目を光らせ、強い風を巻き上げる。
そしてダークグリーンの光を放ち、その姿をニズホッグへ変えようとしていた。
するとどこからか聞こえる声。
【なぜ僕は生まれてきたのだろう……なんのために……
なぜ母様はゴデ・オ・オンデを口にしたのか…
僕は……僕は……特別な能力も何もいらない!
誰か……………どうかこの僕を消して……………!!】
ダークグリーンの光の中、空に手を伸ばす少年の頬には、一滴の涙が伝う────
夢から目覚めた私の頬に、涙が伝っていた。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈