moonlight(中編)
「実緒がわたしを待っている!」と自分に言い聞かせ、自転車を押しながら坂を必死に歩いていった。
――それを乗り越え、ここに辿りついた。
ネオは自動車の邪魔にならないように自転車を家の前に置いて、カゴに入っているピンクのショルダーバックを取り、苦しげな顔つきで前のめりになりながら、玄関の近くにあるインターホンを、
ピンポーン!
と押した。
タッタッタッタ、とドアの奥から走ってくる音が聞こえてくる。
ガチャ! と扉が少し開く。
「あ、ネオちゃん」
半顔でネオを確認した実緒は、ドアを全開にする。
ふわふわした黒髪に、白い水玉模様の紺色のチュニック、白の九分丈カーゴパンツと、いかにも彼女の可愛さを引き立てる、夏にピッタリの服装だ。
「あの坂、大丈夫だった?」
「……うん。聞いたときはそれほどでもないと思ってたけど……あれは、地獄だわ。う~……」
夏の暑さで熱中症になりかけそうだよ~、と目を細め、ショルダーバックを肩にかけたまま、ダラ~ッと手を下げる。
ちなみに実緒は、父親の車でこの坂を楽に攻略しているのだとか。
「お、お疲れ様~」
大げさなリアクションに実緒は、苦笑しながらネオを見つめる。
「それよりも、中に入れて~。もう、日差しはみたくないよ~」
「そ、そうね……」
苦笑しながら実緒は、手を家の方へ向けて、「どうぞ、中に入って」と案内する。
「へぇ~、わたしの家となんとなく似ているわね~」
靴を脱ぎながら、家の感想を述べる。
真新しさを感じられないどす黒い木の色から、自分の家と同じような、質素な家だなと感じた。電気をつけていないので、さらに暗く感じる。
「おじさんは仕事として、おばさんもお仕事なの?」
「うん。ファッションデザイナーの仕事をやっているの」
実緒は奥にある台所の机に置かれているお菓子の入った皿とお茶とコップを花柄のおぼんにまとめる。母親がデザイナーをやっているとは、ネオは何となく実緒が絵を描いているルーツが分かったような気がした。
「こっちだよ」
作品名:moonlight(中編) 作家名:永山あゆむ