moonlight(中編)
ネオとは、そういう人なのだ。ワガママな部分もあるが、海よりも広い心の持ち主なのだ。
その良さは羨ましくも感じ、同時にそんな彼女の友達でいられることに、未知流は誇りを持っていた。本人には話せないけど。
「ということは、夏休みに活動が終わってすぐに帰ってたことがあったけど……彼女と遊んでいたの?」
「そうよ」
「ふうん」
夏休みの活動は普段とは違い、演劇部が使わない日を利用して、午前中から活動していた。そのため、午後からはフリーなので、実緒の部活動の休みに合わせて、遊びに行っていたのだった。
「あ、みっちぃも遊びたかった?」
未知流はネオの気持ちを察して、
「いや。別にいいけど。でも、そんなに仲良くなったってことは、一緒に駅前の商店街とかで買い物したり、家で遊んだりしてたの?」
「まあね。わたしと実緒は『親友』だからね」
と言い、夏休みに彼女と遊んだことを、少しだけ。
とても自慢げに。
「こ、ここ……だわ……」
急こう配な坂を駆け上がった先にある二階建ての一軒家――実緒の家へとネオは辿り着いた。
彼女は、ハァ、ハァ……と喘ぎ、額には汗が流れている。どことなく夏の流行色であるパステルブルーのシフォンブラウスと七分丈のデニムに、汗の湿り気を感じる。
――だって、大変だったのだ。
最初は涼しげに、通学時の自転車で軽やかに国道沿いを漕いだ。しかし、教えられたルートは国道から離れていき、狭い道を通り、しまいには「あの坂」だ。
自分が住んでいる団地よりもさらに急な角度の坂だ。この試練を乗り越えたら、絶景や楽園が待っていると思うくらい。
地獄から天国に這い上がらないといけない状況を目の当たりにして、ネオの身体はへなへなにふやけて、自転車のハンドルバーの上にもたれ掛る。しかし、その先で親友と思っている実緒が待っているのだ。彼女が笑っている姿が脳裏に焼き付く。そんな彼女を、自分がここで引き返して、悲しませ、「友達をやめる」なんて言われたくない。「大変だよ」と忠告してくれた実緒に「大丈夫だから!」と余裕の表情で言ったのは自分なのだ。責任を果たさないと。
作品名:moonlight(中編) 作家名:永山あゆむ