moonlight(中編)
「あんたはただの、努力もせずに思い上がっただけの、ゴミ同然のクソ野郎よ! あんたみたいなヤツがいるから、努力を否定する大馬鹿がいるから、夢への、『自分の可能性』を失う人がいるのよ!!」
両手の拳が、身体を震わせるほど、力が入る。
「『俺に逆らう』? 怒りを通り越して、アンタの人間性に呆れるわよ。分からないの!? あんたが誰よりも格上の『天才』だからってね、努力し続けたものの方が、圧倒的に有利で、優れているってことを! 創作する全ての者はね、みんなみんな、辛い道を通って、努力して、一歩ずつ前へと歩いているんだよ! わたしだって、去年は色々と迷惑をかけて、辛い思いもした。だけどね、その過程があるからこそ『今のわたし』がある。それだけは否定できないわ! それは実緒だって同じよ! 努力したからすごい賞が取れた! 何物にも代えがたい価値を、あんたは壊したのよ! 誰にも否定できない『証』を! 存在を! そんな努力する人の気持ちを傷つけて、美術を語るあんたなんか、あんたなんか……」
潤んだ瞳で、キッ、と武藤を見つめ、
「こうしてやる!!」
ネオは勢いよく武藤の顔面を目がけて、力強く握った右の拳を突きだす!
美術室に「うわぁ!!」と、恐怖と驚きが入り混じった悲鳴が響き渡る。
しかし。
武藤の顔面ギリギリのところで、ピタッと踏みとどまった。
「……っ!」
歯をギシギシと噛みしめる。
ネオには分かっていた。同級生に向かって『殴る』という行為が、どれほど重たいものかを。小学生の頃とは違うことを。
それはすなわち、自分と仲間たちが目標としていた舞台から、外されるということ。
ここで彼と暴力沙汰を起こせば、内にため込んだ怒りから解放されるだろう。だが、それと引き換えに、総合祭に向けて必死にここまで頑張ってきたものが、崩壊してしまう。仲間たちを裏切るわけにはいかない。そして、自分たちのステージを楽しみに待っている学生たちにも――。
だから、踏みとどまった。心の内にある怒りを、引き出しの奥へ奥へと無理矢理押し隠した。
ネオは俯いて、武藤に向けた拳を下げた。
二人しかいないと思わせるような沈黙が続く。
ネオはそれを利用して、踵を返して下の方へと歩き出した。
「んだよ……」
予想外の行動に、武藤はその場で呆然と佇み、ネオを見つめる。
ネオは、廊下へ出ていき、
作品名:moonlight(中編) 作家名:永山あゆむ