moonlight(中編)
「あの」
そんな彼女にびびりながらも、ドアの近くで座って作業している、メガネをかけた凛々しい男子学生が部員を代表してネオの前へとやって来る。おそらく部長だ。それも学年が一つ上の。
「君は、軽音楽同好会の麻倉さん、だよね」
「そうよ!」
上級生相手に威勢のいい態度をとるネオ。
「一体、ウチに何のようなの? 君の部活とは、無関係のはずだけど」
部長はネオに負けじと、冷ややかな態度で対抗する。
「関係あるわよ! わたしの友人にね!」
「友人?」
肩をすくめている部長にネオは、ええ、と頷き、
「この部活に所属している、竹下実緒についてよ!」
「竹下さん、に?」
部長は『竹下さん』というワードに一瞬、ビクッと身体を震わせる。
「そうよ! 急に一週間不登校になったんだけど、何か知らない!? 部活に行く前、暗い顔をしていたのだけど!」
教室中に轟く怒声を、部長に向かって叩きつける。
「ねえ! どうなのよ!!」
獲物を狙う猛獣のような鋭い目つきで前のめりになり、部長を威嚇する。
「そ、それは……」
「それは、何!?」
ためらう部長に、もう一歩前へと踏み込もうとしたその時。
「竹下ぁ? ああ、あのお邪魔虫のことか。ずっと来ねぇと思ったら、そうんなことになっていやがったのかぁ~」
「武藤(むとう)!」
校舎が見える窓際の席に座っていた男子学生が立ち上がる。いかにも『不良』と呼ぶに相応しいだらけた格好、厳つい目つき。そして、金色に染まった髪。武藤と呼ばれた男は「ククク」とネオをあざ笑いながら、こちらに向かって歩いてくる。彼の狂気に怯えたのか、「ひぃっ!」と部長は逃げるように、二人の間に入る。教室の空気も陰気なものへと変わる。
ネオは武藤という名前に聞き覚えがあった。確か、未知流と同じクラスだったはず。
しかし相手が誰であろうと、ネオの態度は変わらない。茨のように刺々しい形相で武藤を見上げる。
「へっ! いい度胸してんじゃねぇか。麻倉さんよ」
「あんたに褒められても、何もないわよ」
作品名:moonlight(中編) 作家名:永山あゆむ