moonlight(中編)
思いたくない。思いたくないけど。
これってやっぱり……!
頭の中で、ある三文字の言葉が思い浮かぶ。そして、その事件があったのは恐らく……。
「先生! 竹下さんって確か、美術部でしたよね!?」
「え? ええ、そうだけど」
「ありがとうございます!」
「麻倉さん!?」
ネオは全速力で教室を出ていき、すぐ側にある階段を駆け上がっていった。
廊下で「ネオ!」と呼ぶ、未知流の声も空耳に聞こえるほど、必死に。
そして今、ネオは学生校舎から奥にある専門教室校舎へと走っている。
美術部に問い詰めるために。
ネオが『傷つけられていた』という真相を確かめるために。彼女とのやり取りで思い当たる部分がそれしかないのだ。
ネオはふと思った。
あの表情はもしかしたら、「助けて!」というサインだったのかも、と。それが本当なら、なぜあのときから、気づけなかったのだろう。むしろ、その違和感を夏休みに打ち明けたら良かったんじゃ……。思えば思うほど、早く行動しない自分がバカに思えた。
歯をギリギリと噛みしめながら、専門教室棟の階段を2階から3階へと上っていく。
あのときのように友達を失いたくない。失ってたまるか!
――友達を失った出来事の一部始終が、フラッシュバックされる。
小学生五年生の頃、ネオはクラスメイトに傷つけられた。それも親友の裏切りによって。
ある日の放課後。「私服に着替え次第、また学校で会おうよ」と、同じクラスであり、幼稚園の頃からずっと一緒だった親友(女の子)に呼ばれた。ネオは疑いもせず、素直に親友の誘いに乗り、家にランドセルを置いて私服に着替え、すぐさま小学校へ向かった。
待ち合わせ場所である下駄箱の前で親友に会い、自分のクラスから二つほど離れた教室に連れてこられたネオは、先にいた友達二人を紹介される。そして、彼女から自分の秘密が明かされた。
『性格が気にくわない』という理由で、仲間とともに、「死ね!」とか、「消えろ!」とか、卑劣なラクガキをしていることを。そして、それをネオにも書いてもらおうと考えていたのだ。『親友』だから。
作品名:moonlight(中編) 作家名:永山あゆむ