moonlight(前編)
彼女はビクビクしながら、左にいるネオの方へ顔を向ける。
「……そ、そんなに怖がらないでよ」
「だ、だって、あまりにも大きな声だった、から……」
「あんたがわたしに気づいてくれないんだから、大声も出すわよ!」
ちょっとやりすぎたかな、と内心思いながらネオは、自分がシカトされたことへの不満を漏らす。
「あ……ごめん。自分の好きなことをやっていると、つい夢中になって……」
「もうー」
ネオは腕組みをしながら女子学生を睨む。
そんな彼女に、女子学生は顔を赤くし、視線を下に向ける。
「そ・れ・で、何を描いているの?」
ネオは猫のような人懐っこい笑顔で、女子学生の顔を覗き込みながら訊ねる。
「え?」
「その紙に何を描いていたの!?」
ネオは、きょとんとしている女子学生の作品に指差す。
「あ、ああ、これのこと?」
女子学生はチラッと机の上に置いてある紙を一瞥する。
「これ、まだ途中だよ」
それにうまく描けていないし、と女子学生は見せるのを躊躇(ちゅうちょ)する。
「そんなのいいから、いいから! ね! ちょっと見せてよ!」
「あっ!」
ネオはネコ型ロボットで有名なあのアニメに出てくるガキ大将のように、女子学生の机の上にある用紙を強引に奪い取り、どれどれ~、と見つめる。
「やっぱりうまく描けていないよね……?」
自信なさげにきゅっ、と女子学生は身体を萎縮(いしゅく)する。
しかし、
「!」
その未完成の絵に、ネオは思わず息を呑(の)みこむ。
――かわいい!!
ネオからしてみれば、黄金のように輝いていた。
ドレスを着た清廉(せいれん)な女性が、花畑で穏やかな表情で風を感じている姿を。途中なので、まだ花畑が完全に仕上がっていないが、この世のどこかに存在しているのかと思えるくらい、すごく生きているように見える。
おおっ! おおおおおっ!! と女子学生の絵に釘付けなり、そして、
作品名:moonlight(前編) 作家名:永山あゆむ