moonlight(前編)
ゆっくり寝とこ……、とネオが思ったその時。
「……」
たまたま、廊下側の前から二番目に座っている女子生徒に目が付いた。
小柄で、ネオとは対照的に校則を守った服装で、髪は肩にかかるくらいでふわふわしており、清楚なお嬢様のように見える。
――確か名前は、ええと、なんだったっけ?
悲しいことに、ネオの記憶にすら出てこない女子学生は、何らかの作業をやっているみたいだった。
ネオは彼女が何に夢中になっているのかが気になり、彼女の左隣の席から覗いてみる。
女子学生の机の上には、A4サイズの用紙。左手には鉛筆を握っている。
――何かを描いて……いる?
ネオの存在に気づく素振りは全く感じられない。さらに、話しかけられる雰囲気でもない。まさに、一意専心状態とでも言うべきか。
女子学生の作業をしばらく観察する。
しかし、5分足らずで、
「う~っ!」
と低い声で呻く。
チーターのように獲物の様子をじ~っと伺うような状況に我慢できなくなり、己の好奇心の赴くままに彼女の席へと歩み寄る。
そして、
「ねぇ」
女子学生に声をかけてみる。
しかし、
「……」
無言。
本気で「あの状態」のようだ。
ムッキーッ!!
ネオはやけになって、人を寄せつけぬほど夢中になっている女子学生の耳元に近づく。
そして、
「わあぁぁぁ――――――っっっ!!!!」
ライブの時と同じくらいの、張りのある大声を叫ぶ。
「うわぁあああっ!?」
女子学生の耳が、ネオの罵声を左から右へと貫通し、あまりの大声にびっくりして、首から頭にかけて電撃が走り、震える。
作品名:moonlight(前編) 作家名:永山あゆむ