moonlight(前編)
「うん、そうだよね……」
視線を床に向けて、ポツリと呟く。
「ネオちゃん?」
「ああ、ごめん、ごめん。ちょっと、去年のことを思い出したっていうか……」
気にしないで! とネオは笑ってみせる。
「あ、そうそう。実緒、わたし、あんたの絵が気に入ったから、いつでもいいから絵を見せてくれない? いっぱい見たいんだ」
「え!? ……で、でも、あまり期待しない方がいいと思うよ」
自信なさそうな声音で答える。
「いいや! どんな絵でも上手い! いや、絶対!」
あまり見せる気がない実緒を、ネオは自信たっぷりに励ます。
「でも……」
実緒は、顔を俯く。
あ~、もうっ! と髪をかきながら、
「いーい、実緒! わたしは別にあんたの努力を否定するわけじゃないの! いや、否定なんかできないよ! 人が時間をかけて作ったものをバカにはできない。その人に失礼だし、頑張ることは素敵なことだもん。わたしはどこぞの批判住民とは違うから!」
自分がどのように思っているか、言葉を探しながら実緒に伝える。
「ネオちゃん……」
実緒は、圧倒されたような表情でネオを見つめる。彼女の大きな器に引き込まれていく。
「じゃあ、こうしよっ! わたしもお気に入りの曲とか部活で歌った音源とか見せるから、実緒も見せるってことで。これなら、おあいこでしょ?」
初めからこう言えばよかったと思いながら、ネオは提案する。
「ネオちゃんがそういうなら……分かったわ。その代わり、私が持ってきた次の日は、ちゃんと持ってきてよ」
持ってこなかったら見せないからね、と一言付け足す。
「りょーかい! 約束よ!」
ネオは、拳を作り、実緒の前へと出す。
実緒はそれが何のことか一瞬、戸惑うも、
「うん!」
実緒も拳を作って、ネオのそれとコツン! と当てる。
この二人の間に『友情』が結ばれた。
「それにしても、ネオと実緒……う~ん、名前も似ているからなのかなぁ。似た者同士だよね、わたしたち!」
ね! と太陽のような笑みで、実緒の両肩をガシッと掴み、顔を覗き込む。
え、えええええ!! と実緒は困惑しながら、
「そ、そう?」
と答える。
「うん! 絶対!」
何を根拠に言っているのか、まったくもって意味不明だが、ネオは感慨深げに腕組みをしながら、うんうん! と頷く。
そんな彼女に申し訳なさそうに、
「あ、あの~、それって、名前だけじゃ、ないかなぁ……」
ネオから視線を横に外し、さりげな~くツッコんでみる。
それを金魚すくいの達人みたく、
「な、何よ~! わたしと一緒だってことが嬉しくないの~?」
スパッ! とすくい上げ、口の中を風船のように膨らませ、実緒を鋭い目つきで顔を近づく。
そんな実緒のピンチに、
「ネオ~」
「!」
――助けに来てくれたかのように、未知流が教室へと入ってくる。途端にネオは、急に姿勢を真っ直ぐ伸ばし、彼女を見つめる。
作品名:moonlight(前編) 作家名:永山あゆむ