moonlight(前編)
黒薔薇の女王は、不機嫌な顔をしている。
「……早くしな。みんな、ネオを待っているから」
「え!?」
「今日は、演劇部が休みだから、昼からやろうって言ったのはどこのどいつだよ?」
ゴゴゴゴゴ、と揺れるのを感じる。
え? ちょっと待って! とネオは速攻で昨日のことを頭の中でふりかえる。
ええっと、夏休みに市内の音楽ホールでやる、『アマチュア・ロック・フェスティバルin IWAKUNI』の音合わせをするのは良いとして、昨日、活動前に演劇部の部長から「明日、休みだから、昼から使っていいよ♪」って言われて……、昼からやれる! いっぱい練習できる! うれしいーっ! と昨日、大はしゃぎしていたよ……ね。
――ははははは。「責任」の重みを感じ取ったばっかりだったのに。
ネオの額から冷や汗が垂れる。
「あは、はははは、……ごめんなさい」
従順している僕のようにペコッ、と謝る。
「まったく。話に夢中になりすぎだ。見ろ!」
「あ……」
辺りを見回すと、教室にいるのはネオと実緒だけで、がらんとしている。
実緒も罪悪感を感じたのか、席から立ち上がって、
「ご、ごめんなさい! 気づいていたけど、ネオちゃんがあまりにも楽しそうに話すから」
と謝る。
「いや、謝らなくてもいいよ。悪いのは、迷惑ばっかりかける、こんの『人でなし』、だから」
「は、はぁ……」
未知流はつっつくように、『人でなし』に向かって指を差す。
ネオは急いで、実緒の足元にある自分の鞄をせっせと持ち上げた。
「じゃあね、実緒!」
ネオは学校指定の革靴に履きかえ、下駄箱と下駄箱の間から見える実緒に手を振る。
「うん……また明日……」
実緒も微笑みながら手を振る。
にっこりと笑っているその顔から、どことなく寂しそうな雰囲気を、ネオは感じた。
ネオはすたすたと廊下を歩く彼女に目を疑った。
「……」
「ネオ?」
作品名:moonlight(前編) 作家名:永山あゆむ