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03. 興味と対象
放課後のとある教室にて。
「もう。レンジったらまた携帯切ってる!」
琴菜が言った。
肩くらいの長さの薄い茶色の髪がサラリ、とゆれる。とても綺麗な顔立ちをしているが背は小さい。小柄なせいでブラウスの上に着ているカーディガンの袖がブカブカと手までもほぼ覆ってしまっている。そこからほっそりとした指をのぞかせ携帯を弄っていたが、ため息をつきながらその手を下ろした。
「コトちゃん、そんなヤツやめて、そろそろ俺にしようよー」
亜希が自分の耳の数か所開けてつけているピアスを弄りながら言った。すると有紀もニコニコと続ける。
「じゃあ俺も俺も!」
「じゃあって何、ユキ。ほんとお前も適当だよなー?」
「アキに言われたくないよ!」
ちなみに亜希は学校指定のだがあえて大きめなVネックセーターを着ている。ネクタイは締めず、上から数か所ボタンを空けている為に、シンプルなネックレスがそのシャツから覗いている。
有紀にいたってはもはやシャツもVネックも着用しておらず、明るい色合いのパーカーを中に着て一応その上から学校のジャケットを羽織っていた。
ピアスは亜希ほど開けてはいないが、小さいピアスをいくつもつけている亜希と違って、少し大きめのものをつけていた。
「そういや、最近面白い気になる子がいるってレンジ言ってた」
不意に思いだしたように琴菜が言った。すると今まで会話に加わらず本を読んでいた陸斗が顔をあげた。
琴菜の双子の兄である陸斗は、琴菜と同じくらいの長さの髪のサイドを後ろでとめていた。もともと黒い髪だが、毛先に少しだけ以前染めていた色が残っている。双子といえども二卵性の為、瓜二つ、という訳ではない。背もこの中では一番高かった。
制服はいつもきちんと着こなしている。
「いや、確かそれ、男」
陸斗がそう言うと、亜希と有紀が示し合わせたかのように声をそろえた。
「「やだレンジくんたら不潔!」」
そして琴菜はなぜか目をキラキラさせている。
「何なのその面白い展開ってば!」
「おい……お前ら……勝手な事言うな。そしてコトに至ってはなんなんだよ、面白い展開って……」
そこに話題の元である廉冶がいつの間にか来ていて呆れたように突っ込んだ。
「「「あ、レンジ」」」
「気持ち悪いくらい声をそろえるな!」
「まあまあ」
さらに呆れてジロリ、と3人を見る廉冶に、陸斗がなだめるように言った。
「ていうかなんで携帯切ってるのよレンジってば」
「あー、忘れてた。別にいいだろ、今もこやってここにいるんだしさ?」
「そういえばその面白い子って、もしかしてミヤちゃんのこと?」
琴菜と廉冶が話しているところに有紀が聞いてきた。
「あ?」
「て、有紀くん知ってるの?」
廉冶がダルそうに答えてる横で琴菜が有紀に聞く。
「ああ、うん、こないだ会ったよ!」
「へえ、どんな子?どんな子?」
「なんかねー、男なのに美人さんだったな!可愛かったよー」
「え、ヤダ何それ超楽しすぎる!」
「コト……なんだそれ……」
美人さんと聞き、また目をキラキラさせる琴菜に廉冶が呆れる。そこに亜希が琴菜に向かって言った。
「ていうかコトちゃんは聞いた事ない?保志乃って子」
「え?あ!なんか知ってる、その名前!友達がなんか言ってた気がする!知的でいて、あまり誰ともしゃべらない硬派な超イケメンだって!」
「っぶ……」
「て、なんでそこでレンジが噴き出すわけ?ていうかレンジったらそんな子と仲良しになってたんだー!今度あたしにも紹介してよね」
「あー?ああ、今度な」
廉冶はさもめんどくさそうに適当に答えた。
「ていうか確かにほんと最近よく構ってたね?そういえば同じクラスだっけ、保志乃くんって」
今まで黙って会話を聞いていた陸斗が、ああ、と気付いたように廉冶に言った。
そこに有紀が突っ込んだ。
「そういえばって。お母さん関心なさすぎ!」
「だれがお母さんだ。いや、ていうか男に関心ありありよりマシだろう?それに保志乃くんって、実際誰ともしゃべらないしさ、確かに美人だけど大人しいからあんまり気にした事なかった。あーでもクラスの他の奴らはけっこう色んな意味で気にしてるっぽいね。……女の子だけじゃなくて、なんか男どもも」
「え、ヤダ面白い!」
「コトちゃんってば。ていうか、レンジ?にこやかなつもりだろうが、怖ぇえってば、目が!そういえばそのミヤちゃんは今日は一緒じゃないのか?」
亜希が琴菜に笑いかけた後で廉冶に言った。
「あぁ?なんか先生に頼まれごとだと」
「て、そんなつまらなそうに!まさかミヤちゃんが用事でいないから仕方なしにこっち来たとかじゃないよな?」
「えーヤダ、そうなの?レンジってば」
「えーうわー最悪ー。コトちゃんーやっぱこんなヤツやめて俺にしときなよー」
「うるさいボコんぞテメぇら」
「「うわーレンジのどSキター!」」
その時陸斗がため息をついて立ち上がった。
「お前らもいい加減にしときなよ?琴菜も何楽しそうな顔してる訳。まったく。ほらほら、そろそろ行くぞ、追試組。俺らは家で勉強な」
「あー……そうだったねー……あーうー勉強……」
「あーあ、コトちゃんもいないのにリクの部屋で何が悲しくて男3人で勉強……」
「誰の為にこの俺が貴重な時間を使ってやると思ってるんだ?ああ、レンジ、あんま琴菜を遅くまで連れ回すなよ?ちゃんと送るように」
「へーへー。じゃーな、お前ら。せいぜい頑張るんだな、このド貧相頭どもが」
「うっわ、ホント最悪この人!」
「だよねーホント最悪ー」
有紀と亜希がブーブー言う中、廉冶はニヤリとしながら琴菜に「行くぞ」と言って教室から出ていった。
「ていうか、リクはいいの?レンジ、なんつーか、コトちゃん、いちおー大事にはしてるけど、なんていうか、あれ、本気じゃなくね?」
2人がいなくなった後で有紀が聞いた。
「そういうのは2人の問題だろ。いい歳していちいち俺が口をはさむ事でもないだろうが」
「うわーさすがお母さん、普段はいちいちうるさい割に寛大だわー」
「だれがお母さんだ。アキ、お前問題集プラス1冊な」
「げ」
「けけ、バーカ、アキのバーカ」
「お前もたいがいだけどな、ユキ。ほら、行くぞ」