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華あるものは夜にささやく

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「そんな裸みたいな格好して、学校うろついてりゃ、あんな連中しか寄ってこねえよ! そんなの当たり前じゃねえか! 逆ハーレムでチャラ男はべらしていい気になってるから、友達だって出来ねえんだよ! 『触れるエロ本』みたいな扱いが嫌なら『触れるエロ本』みたいな格好やめればいいんだよ!」
 言い切った!
 今日一日、溜りに溜まった彼女への鬱憤が一気に晴れて、とても清々しい気分になる。ギリギリまで我慢してた膀胱が、いや、この例えはやめとこう。
 ともあれスカッとした。
「ふっ」
 息が漏れるような音がして、彼女が俯いた。その小さな肩とダランと垂らした両腕が震えて、まるで火山爆発寸前の地震のように見える。
 やばい、最悪これは殴られるかもしれない。
 彼女の両腕が持ち上がった!
「っ!」
 悲鳴をあげないので精一杯だった。咄嗟に顔をかばった僕に彼女の鉄拳が……飛んでこない。
「ふっ、う」
 彼女は手で顔を覆って俯いたまま、さめざめと泣いていた。
 近くの繁華街の音がかすかに聞こえる。
 明るいのに少し冷たい感じのする三番出口に彼女一人の嗚咽が響いた。
 その声が、その音が、僕の空っぽになった心の中で、大きく反響しながら重く溜まっていく。
「その」
 ごめん、と言いかけた口が重たく閉じる。言いたいだけ言って、彼女を泣かしたのは僕だ。
 この上、自分の言いたいことだけを言うべきじゃないだろう。
 僕はとりあえず出口に立って、誰も来ないよう見張ることにした。泣く姿なんて見られたいもんじゃないだろうし。
 繁華街の方はまだ賑やかそうにネオンが光って、人通りも多い。けど、こっちに歩いてくる人影は全くない。
 携帯電話の時計を確認すると深夜一時を示していた。
 これから、どうしようかな。
 カラオケボックスかネットカフェか。彼女はどっちがいいんだろう。
 考えつつ携帯電話をいじる。
 誰からもメールは来ていない。着信履歴もなし。
 一応、置き去りにされたのにな。案外、僕が思うほど、友達は友達じゃなかったのかもしれない。
 もう一度、時計を見たけど、三分ぐらいしか経っていない。
 なんで、こんなことになったんだろう。
 昨日まではゲームして、学校行って友達と遊んで、それが今日も明日も同じように続くと思っていたのになあ。気づいたら、学校の有名人と一緒にダーツして終電逃して、女の子泣かしてしまって、友達もそっけないし、なんだか世界から取り残されたみたいな気分だ。
「何時?」
 不意に少し険の残る声が後ろからかかった。さっき見た時計の数字を告げると「そう」と短い返事が返ってきた。
 彼女は後ろにいるままで姿を見せない。けど、振り返るのもなんとなく悪い気がする。見せたくないから姿を見せないのだろうし。
「どこいくの」
 彼女の問いに、近くにあるカラオケボックスとネットカフェの選択肢を返すと、彼女はネットカフェを選んだ。
「先に行って」
 有無を言わせない口調に僕は、いかがわしいネオンがきらめく繁華街へ向かって歩き出す。昼間歩いてる時はそう思わないし、友達となら夜歩いてたって誰も僕らをネオンのお客さんだとは思わない。だから、安心して歩けた。
 けど、女子と一緒に歩いてる今は、よく見ればお客さんじゃないと気づかれるだろうけど、パッと見はやっぱりそう見えるだろう。特に一緒に歩いてる女子は、中身はあんなだけど、いや、中身があんなだからこそ、容姿が際立って見える。
 もしかしたら僕が目を離した隙に、そこら中に立ってる怪しいオッサン達に物陰やお店に引っ張り込まれるかもしれない。
 そんな想像に握りしめた手の中が汗で湿る。
 無言のまま、何度も彼女がついてきてることを確かめながら歩く。やけに遠く感じたネットカフェに辿りついていから「ペアシート」と彼女が要望を口にした。
「え、個室の方が便利だけど」
 彼女がため息をついて面倒くさそうに口を開く。
「痴漢にあったらどうすんのよ」
「すぐに誰か気づくと思うけど」
 個室と言ったって天井がないから物音は筒抜けだ。
「犯人がすぐに捕まるから『触られてもいい』って言うの?」
 男の発想よね、と忌々しげに彼女が言う。よく分からないけど、あまり反論しない方がよさそうだ。
 言われるがままにペアシートを選び、店員からブランケットを多めに受け取って静かな店内に入る。この時間帯なら客の目的はほとんどが睡眠だろう。
 二畳ぐらいのスペースにマットレスが敷いてあるだけのペアシートに靴を脱いであがりこんだ。
 別にネットがしたいわけじゃないし、漫画を読むような気分でもない。どちらかともなく二人で背中合わせに寝転んだ。
 彼女は寝転んだ姿勢のまま、自分の体にブランケットを何枚もかぶせていく。寒いのだろうか。そうして、ひとしきりかぶせ終わると、ノイズのような彼女の身動きする音が消えた。
 特に会話もない。聞こえるのは隣や向かいのシートから聞こえるかすかな物音と、マウスのクリック音。ひそひそ話ぐらいはしているのかもしれないけど全然聞こえなかった。
「ねえ」
 彼女の声、というより床を通じて聞こえる微かな振動のような信号。
「なに」
 同じぐらいのトーンで聞き返すと、しばらくして「あんたモテないでしょ」とポツリと返ってきた。
 自覚はあるけど、改めて言われるのは初めてだ。でも、怒る気にはならない。「うん」とだけ相槌を打った。
「私モテるのよ」
 自慢でもなんでもない、事実を述べるだけの感情のこもっていない声。
「知ってる」
「小学校の頃は女子の友達もいたんだけどね。中学に上がってから周りが男だらけになって友達がいなくなったの」
 どうして、僕にそんな話を聞かせるのだろう。
「高校もそう。一応、女子の友達も作ろうとしたことあるんだけど駄目だった。私が友達だと思っても、誰も私を友達だと思ってくれなかった」
 その寂しさは、ついさっき思い出したばかりだ。
「けど、女子って可愛いもの好きだからね。可愛くなればいいんだ、って思ってファッションを勉強したの」
 前向きだな。
 彼女は少しだけ間をおいて、言葉をゆっくり静かに続けた。
「私ね。今、一ヶ月にファッション誌を十二冊買ってるの」
 そんなにあるのか。彼女には悪いけど、そんなに種類があることの方に驚いた。
「新しいのが出たらとりあえず買ってチェックして、モデルさんと同じ格好が出来るようにダイエットもずっとしてる」
「すごいね」
 僕は友達を作るためにそんな努力をしたことはない。
 ただ、大学に入ってなんとなく緩そうなサークルに入って、趣味が合う、という理由だけでなんとなく友達だと思っていた人たちがいたぐらい。
「でしょ」彼女がおかしそうにクスッと笑った。
「さっきはひどいこと言ってごめん」
 露出狂なんて、彼女はそんなのとは全然違う。
「ううん。合ってるから」
 彼女が呼吸をする音が聞こえる。背中合わせで、触れ合っていないはずなのに彼女の温もりがほんのりと伝わってきた。
「これだけ努力したんだ、って誰かに見て欲しかったのは変わんないから」
 ダサいよね、と小さく彼女がこぼす。
「かっこいいと思うよ。僕はそこまでしたことないから」
作品名:華あるものは夜にささやく 作家名:和家